Career Leaves ブログ

キャリアプランを真剣に考えたいあなた、失敗しない転職活動をしたいあなたと向き合い、共に考えます。

謙虚に、教えを請う

先日、キャリアコンサルタントスキルアップのための講習会に参加しました。人材紹介業のコンサルタントハローワーク等の公的機関のカウンセラー、企業の人事担当など、日頃社会人のキャリア相談に応じている人たちが集まっての勉強会で、ロールプレーを中心にカウンセリングスキルの確認、向上を図るためのものです。

30代前半の女性カウンセラーと組んで、ロールプレーしたときのことです。彼女がカウンセラー役、私が相談者役になりました。相談者は30代後半のシステムエンジニア。半年前に転職しましたが仕事が毎日深夜に及び、家族との時間が取れず、この転職は失敗だったのでは、と悩んでいるという設定です。

私は相談者役でしたので、できるだけエンジニアになりきって悩みを話しました。20分ほどやり取りをしていくうちに、「このカウンセラーはシステム開発のことをよく知らないようだ。この人に相談して、実のある結果が得られるのだろうか」と、相談者である私は不安な気持ちになりました。彼女の反応がどうも表面的で、私が訴えていることを理解してもらえている感覚がないのです。

「実は私、エンジニアの方のカウンセリングをしたことがないんです。開発用語も分かりませんし、忙しさの内容に実感を抱けず、やりにくかったです。」ロールプレー終了後の反省会で、カウンセラー役の彼女が漏らしました。それなら、「私はエンジニアの仕事をよく存じませんので、どんな点が大変なのか、具体的に教えていただけますか」、と告白して訊いてしまってよかったのではないですか、と私はアドバイスしました。

コンサルタントまたはカウンセラーと相談者とは、先生と生徒、上司と部下のような心理的関係になりがちです。私も、コンサルタントになりたての頃、「コンサルタントはプロだ。知らないことでもあたかに熟知しているように振る舞わなければ、クライアントが不安になる。相手から、この人で大丈夫? と思われたらコンサルティングはできない」と教わりました。

確かにそんな面があり、知ったかぶりして話を進め、後で調べて理解するというやりかたをすることがありますし、相談者に訊きにくい面があります。しかし、キャリアカウンセリングに関しては、相談者が何をどう感じているのかは本人しか知りません。そこを理解しなければ、相談者ご本人にとって有意義なカウンセリングにはなりません。カウンセラーはオールラウンドプレーヤーではありませんので、知らないことは謙虚に訊く、という姿勢が大切と思うのです。

その部分、ロールプレーをやり直してみましょうということになり、彼女が改めて私に、「教えてください」と訊ねました。私は、「システム開発には、○○のフェーズがあって、このフェーズではこんな点がトラブルになって・・・」と概略を説明しました。その後のやり取りを少し進めると、「あっ、さっきと違います!」と彼女が嬉しそうに叫びました。説明した後、カウンセラー役の彼女の反応が明らかによくなったのを、私も感じていました。

ここまでは私も想定内。でも、予想外の新たな気持ちの変化が2つ、相談者役の私の中にも生まれたのです。第一に、このカウンセラーは自分に知見がないことを正直に明かして、知るための質問をしてくれた。つまり、事象をきちんと理解して一歩ずつ話を進める確かさがあるカウンセラーだと、信頼感をもったことです。第二に、開発プロセスを説明したことで、少なくとも説明した部分はこのカウンセラーに理解された、その理解を前提にして相談を進めてくれそう、という安心感が生じたことです。

知らないことは勇気をもって、謙虚に訊く。改めてその大切さに気づきました。これはカウンセリングの用語で、《自己開示》に当たります。自分自身の気持ちを、たとえそれが受け入れがたいことだとしても正直に相手に伝える。こちらが進んで胸襟を開くことで、その誠意が伝わり、相手も心を開いて本音で気持ちを打ち明けてくれる、というものです。

皆さんも、たとえば客先で、「ご存じと思いますが・・・」と切り出された話に、それは何ですかとは言えずに、知っているふりをして話を合わせてやり過ごす。そんな体験がときどきあるのではないでしょうか。そこで、勇気をもって「教えてください」のひとことが言えたら、話の展開が大きく変わるかもしれません。

何かの対応策を提示するケースでは、たいていの対策は相手も思いついていてすでに試していることも多いと思います。「それはそうなんですけど…」、「もうやっています…」、と言われてしまうと、次のことばに困りますね。そんなときは、「もうなさったんですね」、と自分がそれを知らなかったことを認めた上で、「では、なぜうまくいかなかったのか、一緒に考えてみませんか」と促すと、よりよい解決策を見い出すきっかけになりますよ。-----

子育てと夫の転勤と:しなやかに働く

今回は、キャリアコンサルティングというよりも、雑談ベースで伺ったお話を紹介します。産休・育休から職場復帰した山下さんと、2年ぶりにお会いしました。

挨拶もそこそこに、女性が子育てしながら働くときの課題は何ですか、と質問すると、「保育所不足など子育て支援体制、配偶者との家事・育児の分担、勤務先の上司の理解、それと自分自身の価値観の明確化かしら。」初めの3つはよく聞くことです。が、最後の「自分自身の価値観の明確化」はあまり耳にしない答え、と心に留めました。

山下優子さんは39歳。千葉大学の理系を卒業し、大手メーカーで設計の仕事に取り組み、10年ほど前に当時脚光を浴びていたインターネット企業に転じました。5年前に第一子出産のため1年ほど産休・育休を取得して職場復帰していますので、今回が2度目になります。本来なら昨年の秋、職場に戻る予定が近隣の保育所不足により入れず、半年遅れで復帰が叶いました。産休を含め、約2年ぶりの復帰です。

職場に戻って早々、今後のビジネスプランを見せられて、一瞬心躍ったそうですが、私にやらせてください、とは言いませんでした。「今は、子供のことが大事です。確かに新しい仕事には魅力がありましたが、同じことの繰り返しでこれを手掛けても進歩がないかも、とも感じました。それに、このプランなら私でなく他の誰かがするほうがうまくいきそう、とも思ったのです」と、あっさりした答えが返ってきました。

仕事は自己実現の場であり、自分自身の思いを仕事に込める。人がどう評価するかではなく、自分の企画がビジネスとして形になるかどうかで自分の仕事を評価する、と現職企業のコアサービスに長年係わり、企画担当の役割で成果を挙げてきた人です。そのコアな仕事に就かない悔しさや、迷いのようなものが感じられないのです。肩すかしを食ったような違和感を覚えながら、私は話を聴いていました。

第一子を出産した後も時短勤務で戻り、必要な会議に出られないもどかしさを感じつつ、限られた時間で最大限のパフォーマンスを挙げようと頑張りました。出産前なら、きょうはどの店にしようか、と同僚と連れだってランチに行きましたが、その時間も惜しいと軽食で済ませる毎日でした。「情報交換の方法は他にもありますし、同僚とランチに行くことよりも大切なのが仕事の時間のやり繰りなのです。子供ができる前に比べて、仕事はずっと効率的にできるようになったと思いますよ。」

実は、職場復帰と同じタイミングで彼女の夫が海外駐在になり、山下さんも秋には退職して駐在先に赴く決断をしました。「少し前から、そろそろ自分で何かを始めることを考えたい、という思いも芽生えていました。私、石橋を叩いて壊すタイプなんです。今回は夫の海外駐在で、背中を押してもらった感じです。」

海外駐在がなかったら、その仕事を受けていますか、と意地悪な質問を投げかけましたが、「しているかもしれませんね」とやはり、穏やかに笑っておられました。

肩肘張って仕事に、子育てに奔走するキャリアウーマンの姿を想像(期待)していた私には新鮮でした。働くこと、生きることへのしなやかさのようなものを山下さんには感じるのです。それになによりも、幸せそうなのです。

人生の価値観は人それぞれです。「産休復帰」、「時短勤務」、「夫の海外転勤」、そして「退職」とキーワードだけを拾うと、子育てや夫の仕事に翻弄され、苦悩する働く女性像を思い描きがちです。実際、そうして自分のキャリアを犠牲にする、または犠牲にしていると感じる人もいらっしゃることでしょう。では、そうした人と山下さんの違いは何なのでしょう。同じ状況でも、捉えかたで幸せの度合いは全然違う。

彼女とパートナーは結婚当初から、仕事はあくまでも家族のため、仕事を家庭に持ち込まないという考えだったそうです。山下さんの言う「自分自身の価値観」はその考えかたに立脚しているようです。人生の幸せは、パートナーや子供たちとの生活にある。仕事は自己実現の場であり、思いを込めてそのときの状況で自分が納得できることをする。が、こだわらない。状況の変化に応じて、新たな自己実現の場を見つける。そんなしたたかささえ感じます。

女性であろうと、男性であろうと、肩肘張って仕事に、子育てに、闘い続けるのは疲れます。一時的には頑張れても、長くは続きません。それにきっと、《幸せ》を十分には感じないような気がします。やっても、やっても満たされない何かが残る感覚です。自分自身のブレない価値観をもって、状況に応じて戦術を変化させつつ、しなやかに生きられたらいいですね。

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理想のコンサルティングを目指して

ずっと前、私がまだマニュアル制作の仕事をしていた頃の話です。デザインAとBを比べて、ほらAの方が全体が締まるでしょ、という感覚的な説明しかできないデザイナーが多い中で、一人だけ、デザイン理論としてなぜA案が締まって見えるのか、を構造的に説明できる方がいらっしゃいました。素人の私は質問攻めで、その方からいろいろブックデザインの基礎を教えていただきました。

「僕が考える理想のデザインとは、何もデザインしないけれど、強調したい情報が目立ち、全体がすっきりまとまっているもなんだ。」

その方がおっしゃっていた、忘れがたい一言です。つまり、余計な装飾がなく、何も仕事(デザイン)をしていないかに見えて、見やすく、読みやすく情報が配置されているのが、彼が考える理想のデザインということです。Simple is best. 我が意を得たり、と当時私も大きく頷いたものでした。

私が現在取り組んでいるキャリアコンサルティングでも、似たようなことが言えると今は考えています。キャリアコンサルティングでは、ご本人の仕事上またはキャリア形成上の課題を軸に、話題は結婚生活、子育ての悩み、人生そのものとライフ・キャリア全般に及びます。それらの課題とどう向き合い、何を問題の根源と捉え、どう対処するか。考えるのも、行動に移すのもご本人です。ご本人が問題の本質を理解し、アクションを起こせるようにすることがコンサルタントの役割であって、ああせい、こうせい、と指図したり、説教することではありません。

では、どうすればご本人が自ら問題の本質を理解し、アクションを起こせるようになるのか、というと、他人であるコンサルタントに、これが答えです、と言われて自覚することではないような気がします。自分自身で考えて、問題のありかを切実に実感しなければ、対処のアクションを起こす気にはならないと思うのです。

私共のキャリアコンサルティングでは、その、本人の自覚を目指して、さまざまな角度からお話を伺い、問答形式でいろいろな質問を投げかける試みをしています。そのやり取りを通じて、ご本人が自分の課題を少しずつ整理し、時に自覚していなかったことを意識上に浮かびあがらせ、自己発見的に課題のありかを突き留め、対処法を考えるように促しています。《自己発見的》学習法です。

コンサルタントからは何もアドバイスをもらわなかった。でも、話しているうちに、不思議と自分の課題が明確になって、これからどうすればよいかも自ずと分かってきた。すっきりして、なんだか気分がいい。」そんな風に、相談者の方からおっしゃっていただけることが、私にとって、理想のキャリアコンサルティングです。

コンサルタントとして何もアドバイスしていないにも拘わらず、相談者ご本人が課題解決の糸口を見い出し、自ら解決に向けてアクションを取ろうと一歩踏み出すようになる。道はまだほど遠いですが、何事も少しずつですね。

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20代女性の適職探し:節電モードから脱却する

「職場では自分キャラ20%の節電モードです。未経験の仕事で自分が至らない点が多いのは認めます。会議で発言すると、なぜあんなことを言うのか、と叱られたりします。ストレート過ぎるのでしょうか。同僚から付けられたあだ名はガイジンなんです。」半分あっけらかんと、半分は自分が情けないという風に南野さんが言います。25歳、いろいろな可能性を追い求める、まだまだこれからの女性です。

相談者のプロフィール

南野さんは、国際基督教大学卒業後、アメリカ留学を経て、ある日本企業に入社しました。新入社員教育に熱心な企業で、半年ほど研修に悪戦苦闘しましたが、自分には向いていないと感じて辞めました。

リーマンショック後の不況のタイミングで、実務経験の浅い第二新卒でしたので転職に苦労しました。多くの人と直接係われる仕事、伸び伸びと人と係われる仕事がキーワードで、今はある外資系企業でマーケティングの仕事に携わり1年になります。

相談者の悩み

南野さんは、マーケティングといいつつも、営業が取って来た仕事を手配をしたり、営業用のプレゼン資料を用意する業務が大半で、今の仕事に遣り甲斐を感じられず、頑張ろうという気になれないのだそうです。その会社にとって彼女は初の未経験者採用で、社内は新人を育てる気風がなく、うまくいかない部分をカバーしてくれたり、教えてくれる人も不在です。初歩的なミスを繰り返す自分に嫌気がさしてもいます。さらに海外経験者である彼女は、女性の多い職場で先輩たちとぶつかり、「ガイジン」と呼ばれ社内で浮いている面もあります。

彼女には、留学時代に知り合った外国人のボーイフレンドがいます。今もアメリカで学生生活をしています。早く彼のもとに行きたい思いもありますが、海外で自活できるスキルを身につけなければ生活が成り立ちません。さらに将来、海外でカウンセラーとして独立したいという夢があり、大学院などで勉強したいと考えています。そのためにも資金を稼ぐ必要があります。

課題の明確化

お話を伺って、南野さんは課題山積の現状を前にして、何からどう手を付けていいのかわからない状態で、堂々巡りの思考に陥り悩んでいるように思えました。視点を変えると、課題の交通整理をして、できることから一歩ずつ進める道筋が見いだせれば、自力で解決できると感じました。

実際、この1年を振り返ると、彼女は失敗や停滞ばかりではありません。たとえば、初めはぶつかってばかりいたある同僚と、一度じっくり話し合ったのがきっかけで、冷静に協業できるようになってきました。その方は業務のベテランの方で、協業を通じてスキルを身につけることができる相手です。仕事のケアレスミスも、場数を踏むことで学習し、少しずつ改善できるでしょう。突破口はすでに空いています。

今後の対応策

彼女の中長期の目標は2つ。海外にいるボーイフレンドの元に行くことと、カウンセラーとして独立するということ。そのためには、海外生活や勉強する資金が必要です。資金稼ぎと共に、実務経験を付けて海外での仕事に備えなければなりません。その意味で、当面の目標は、現職でコツコツ貯金しながら実務スキルを身につけ、会社組織内の人間関係の面でも、課題を克服することです。

南野さん自身も、すでに1回短期の転職を経験していますので、現職で踏ん張れなければ、どこに行っても適応できないのでは、と考えています。苦手だった同僚との関係が改善しつつある手ごたえも感じています。

それならば、今の仕事に集中しましょう、と申し上げました。不慣れで戸惑うこと、同僚とのやり取りでまだうまくいかないことがたくさんあるはずです。ああすればよかったかも、今度はこうしてみようと思うことを、日々のアクション項目としてノートに書き留めること。そして一つずつそのアクションを実行し、うまくいったらどんな点がよかったか、うまくいかなかったらその原因と次回の対応策を書いて、また実行する。

大そうなアクションプランでなくてよいのです。不明点は「○○ということですね」と即座に確認するようなちょっとした心がけだったり、「おはようございます」の声掛けだったり、しようと思えばすぐできる小さな一歩。その積み重ねがいつしか、自分が変わり、周囲も変わるきっかけになります。そして、気づいたときには仕事がスムースに進み、楽しくもなります。その結果、自然にスキルが蓄積されるのです。

今すべてに対処しようとしても、やりようがありません。特に中長期の課題に対しては、今すぐにはどうすることもできません。まずは今の南野さんご自身の地固めに集中することです。ボーイフレンドとのことやカウンセラーの夢は、それを踏まえて1年後、改めて方向性を考えることで、より現実的な解決策が見い出せるのではないでしょうか。

仕事の日常を離れて自分を見つめる

今回は旧知の方との雑談レベルでのお話を紹介します。大熊さんは42歳のシステムエンジニア慶應義塾を卒業後、歴史ある日系大企業に就職します。文系出身で事務系としての採用であり、ご本人が希望したわけでもないのですが、社内情報システム部門に配属となり、以来ずっとエンジニアの仕事です。意図せずに就いたエンジニアの仕事が、彼の適職でした。「営業にいくのかと思っていましたが、会社はエンジニアに適性が合うと判断したのでしょうね。まあ、最初の1〜2年は苦労しましたが、仕事は楽しいです」と言います。

10年後、当時立ち上げ間もないインターネット関連ベンチャー企業に転職し、システム部門のマネージャーとして、ビジネスと組織が急拡大する過程を身をもって体験してきました。その10年の節目となる今年、今や代表的インターネット企業に成長した現職での地位を捨てて退職し、MBA取得に向けて学問漬けの毎日を送っています。経営者になるための布石というよりも、「仕事の現場を一旦離れて学生時代疎かにしてしまった勉強に没頭したい。その没頭の中で見えてくるであろう何かに、その後の人生を賭けたい」、という思いからの決断でした。卒業したら、やはりシステムエンジニアベースの仕事に戻るつもりです。

大学院でさまざまなバックグラウンドの社会人学生と財務やマーケティングのシミュレーションに取り組み、趣味のパイプオルガンを習ったり、学業の傍ら知人の会社のシステム開発を手伝って毎日を送っているそうです。さらにこの夏、お子さんが生まれ、成長の記録をブログに綴ったりもしています。システムエンジニアとして走り続けたこれまでの20年とはまったく異質な濃密さをもった時間が、今の大熊さんには流れていることでしょう。このリッチな時間の先、彼の心にどんな沈殿物をもたらすのか。今の彼にも確かではないかもしれませんが、人生の転機になる何かであることは間違いないはずです。

会社員としてブランクができることを不安に思う方、MBA取得に疑問を感じる方もいらっしゃると思います。確かに、40歳を過ぎた彼にとってMBA取得はキャリアアップの道具にはあまりなりません。卒業後の就職を考えると、ブランクができることと差し引きゼロ、場合によってはマイナスかもしれません。彼自身、MBA取得そのものに意義を感じているわけではないのです。20年慣れ親しんだ仕事漬けの日常からほんの少し離脱して、自分を見つめ直す時間を確保することが大切で、その刺激剤の一つがMBAだったり、オルガンだったり、子育てだったりということです。このブランクは、これからの20年を構想する下地として、彼にとって貴重なのです。筆者も、この体験が大熊さんの人生をさらに豊かにするものと期待しつつお話を伺いました。

自分を見つめる、少し長めの時間を作れることは、とても幸せなことです。金銭的に余裕があるからこそ、こうした贅沢な時間を実現できるわけですが、それはこれまでの彼の努力の結果でもあります。そして何よりも、仕事を離れて人生の転機になるブランクを設ける決断をした彼の意志の力です。

転職先が決まった方に筆者は、「入社まで、せめて1ヵ月休みを取ってはいかがですか。家事を手伝いつつ家族とゆっくり過ごすのもよし、海外旅行に出かけるのもよし、普段行けない語学学校に集中して通うのもよし…。40年働き続けるのですから、1ヵ月くらいそんな非日常があっても悪くないのでは? あなたの人生にとって貴重なひとときになるはずですよ」とよく申し上げます。

大卒で社会に出て働く期間は約40年、人生80年とするとその半分は職業人としての人生ということになります。まだ20代の若い方にとっては、実感の湧かない気の遠くなるような道程かもしれませんし、50代の方にとっては、がむしゃらに働いて気がついたらここに来ていた、ということかもしれません。その40年の流れの節目に、ささやかな休止符を打つことで、普段見えないものが見えてきたりします。

1年仕事を離れるなど、とんでもないと多くの方は感じるでしょう。でも、40年の職業人人生の時間軸のなかでは、束の間に過ぎません。1年と言わないまでもせめて1ヵ月、明日の自分のために、「空白の時間」という投資をしてみるのもよいものです。普段見えていない何か、あなたが心底大切にしたい何かが見えてくるかもしれません。それが見えたら、あなたの人生は、いっそう豊かになります。

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