Career Leaves ブログ

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働く主体性を考える2

前回は、インタビュー調査から抽出した実例から、銀行勤務の新入社員が引き起こした問題を見てきました。鈴木さんは、たまたまA社の融資担当になりました。自分の仕事を「与えられた仕事」、「やらされている仕事」という意識から表面的に仕事の意味を捉えていたのでしょう。顧客であるA社のために、銀行としての自社のために、法人営業部というチームのために、自分がどう動かなければならないかを考える《主体性》に欠けていました。たいていの仕事は担当者一人では完遂できません。さまざまな課題を解決し仕事を遂行するプロセスでは、周囲の関係者を巻き込む働きかけが必要であり、周囲に状況を理解してもらったり、動かすための《コミュニケーション能力》が必要になります。

このケースに表われた課題の多くは、本インタビュー調査の対象者固有のものではなく、銀行業務特有のものでもありません。インタビューの結果、さまざまな業界・職種において、シチュエーションは違えど同質の戸惑いや失敗例が、企業の人事担当者、卒業生双方から語られたのです。さまざまな企業組織において、程度の差こそあれ、多くの新卒社員が入社1年目に直面し、克服していかねばならない課題と言えます。

このケースおよび本インタビュー調査全般から、ジェネリック・スキルが発揮されるまでの大まかな流れは以下のようになります。

① 担当職務に対する《主体性》がジェネリック・スキルの原動力として作用する

② 主体性に基づき、個々のジェネリック・スキルが発動する

③ それらは《コミュニケーション能力》により、周囲に働きかけられる

興味深いことに、卒業生のインタビューで「主体性」という用語は自発的な発言としては皆無でした。新入社員の主体性が問題視されているが、と問いかけると、「失敗するとか怒られるかもと思ってもちょっと無理をして根回しをしに行くという動きは、若手メンバーは鈍いかなと思う時はある。それで実行力とか主体性という部分で、マイナスポイントをつけられているのではないかなと感じる」、「それよりも自分の意見とか改善提案とかして来いということなのかなと思う」、「与えられたことをこなすので1〜2年目は精一杯なので、主体性がないように見えると思う」など、表面的な行動レベルの答えが返ってきました。

この点について、ある企業人事担当者から重要な指摘がありました。その発言を要約すると、「新入社員の課題を本人とその直属の上司にヒアリングして回ったことがある。すると新入社員本人は、計画力が弱いです、課題発見力がまだまだです、など頭を使うスキルを足りないと捉える傾向があった。一方、上司の見方は違っていて、それは十分あると言う。最近は厳選採用で優秀層に絞って採用していることも手伝って、新卒社員はみな優秀。むしろ主体性、働きかけ力を伸ばしてほしいと感じている。予定調和の「正解」を早く見つける環境から、答えのないものを自分で見つける、課題自体も自分で設定してやっていくのが仕事。若いうちは自分一人ではできなくて先輩を頼ったり、チームで進めていく。その際に求められる能力として何が必要か、が理解されていない。」

《主体性》は、自分の意志・判断で行動しようとする態度を意味します。何をするか、しないかの判断も含めて、自分の意志・判断で行動し、とった行動の結果について責任を負う当事者意識です。現実問題として、課題解決の手法やフレームワークを身につけたとしても、自分の職務に関する意義や当事者意識を持って主体的に課題を見つけ、解決のために周囲と協働しなければ、本当の意味での課題解決はできません。最近注目されているグローバル対応力についても、英語力はツールに過ぎません。分かり合いたいという動機と自分が調整する主体性を持って相手の主張に耳を傾け、動かなければ、異文化間の交渉は難しいでしょう。

ジェネリック・スキルとして、課題解決の方法論や語学力を身に着けさせるだけでは足りないのです。何かに取り組む際の《主体性》という実体が掴みにくいものを、教えるというよりもいかに体感させるか。これはキャリア教育だけではどうすることもできず、大学教育現場において綜合的に取り組むべき課題と言えます。

改めて考えると、主体性もジェネリック・スキルもビジネスのみに必要な固有スキルではありません。大学生として、学問に取り組むために必要不可欠のスキルではないか。たとえば卒論です。自分で課題を見つけてテーマ設定し、自ら動いて解明のために必要な情報を収集・分析したり、調査や実験をしたりして、予定調和の正解ではなく自分の解を探し求める。学問追及の姿勢そのものではないか。言い換えると、学業の場において、学問追及の主体性とスキルを身に付けられれば、社会に出ても「場」がビジネス現場に変わるだけで、そのジェネリック・スキルはそのまま活かされるはず。そう考えるに至ったのです。

前々回のコラム「大学で教えるということ4:学生を覚醒させる」で取り上げた「Wake up! プロジェクト」という科目を1年生対象に立ち上げた理由も、ここにあります。主体的な学びの姿勢を学生たちに身に付けさせたい。良くも悪くも自由な大学生活の中で、ダレてしまう前に。