Career Leaves ブログ

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大学で教えるということ4:学生を覚醒させる

4月から、企業の協力により、その企業が新入社員研修で課すレベルの課題を与え、グループで解決策を提案させる授業「Wake up! プロジェクト」がスタートしました。履修対象は全学部の1年生です。この科目は課外学習が週3〜5時間必要なのでその覚悟をもって履修してほしい、と周知しての開講でした。教養教育中心の1、2年次はいわゆる「楽単」科目で単位を稼ぎ、就活のある4年次はゼミと卒論だけにしたいと考える学生が多い中、新規開講で上級生からの口コミ情報がなく、授業外の負担が重い科目に果たして学生が集まるかと不安でした。

ところが、42名の定員に対し履修希望申請者は132名。グループ学習のため履修者を増やすことはできず、希望理由書を元に選抜せざるを得ませんでした。「将来、起業したい。会社を経営したい。この授業で力を付けたい」という将来への意志、意欲が十分な学生たちが10名くらいいました。本来なら真っ先に履修許可すべき学生たちですが、彼らにはご遠慮いただきました。その意欲があれば、私の授業を取らなくても自力でさまざまな経験を積み重ねられると判断したからです。一方、「ディスカッションや人と係るのは苦手で、自分にできるか不安です。でも、自分を変えるきっかけにしたい。」そんな不安層の学生は積極的に履修を許可しました。

「高校までの受け身の勉強ではない何か、これまでとは違う何かを大学教育で得たい。」学生たちの希望理由書を読むと、渇望感ともいうべき感情が溢れていました。前回のコラムで書いたように、大学がこのニーズに応えられなければ、秋学期以降、学生たちは学ぶ意欲を失っていくのも頷けます。私もその一端を担う教養教育の責任の重さを感じました。

とは言っても、大学1年生たちは未だ「高校4年生」です。意欲はあっても、体は指示待ち。教師がお膳立てした学びの場で、正解を教えてくれるのを待つ体質が染みついていますので、「教師に答えを訊くな」、「自分のことばでノートを取れ」、「活字や教師や社長などの権威を信じるな」 そんな話から授業は始まりました。全15回の授業の中で、企業の協力により2回の課題解決プロジェクト(各、授業5回分)に挑みます。教師である私は、課題解決の手法を教えません。企業担当者には、大学1年生だからこの程度、とハードルを下げずに、部下に接するのと同じように厳しい態度で臨んでいただくようお願いしました。

1社目は教育業界の企業で、テーマはインドネシア進出プランでした。ディスカッションでは、「ネット以外で、どこから情報を集めればいいですか?」正解のある問題を解くことに慣れた学生たちは戸惑います。「現地調査に行くことはできないよね、では代案は?」と私は問います。「インドネシア料理店に行ってみる」、「大使館はどうかな」。そんな声が飛び交いました。企業へのプレゼンでは、「君は一体なにを解決したいの?」、「それはアイデア先行。当社がやる必然性があるのか」、「ネット検索することがプロジェクトじゃない。頭に汗をかきながら考えるんだよ」と手厳しい指摘が企業担当者から浴びせられました。こうした真剣勝負を通じて、学生たちが主体的に考えて動く、を自己発見していってほしいという意図です。

5月末、1社目のプロジェクトを終えて、学生の出席率はほぼ100%。週当たりの平均課外学修は4時間20分でした。初めは遠慮がちなお話合いだったディスカッションの場が、少しずつ議論になりました。「悔しい。この失敗は次に活かす」と学生たちは言います。大学受験という一人作業で培った能力を、組織集団の中でどう発揮すればよいかを失敗経験から学んでいます。

このプロジェクトは、事業企画やマーケティング手法を学ぶビジネス講座ではありません。リアルなビジネス課題を題材にしつつ、問題の本質を探り、課題解決のため必要な情報を収集・分析し、予定調和の正解ではなく自分たちの解を導く。その作業を通じて「失敗」という痛恨の思いと共に学生を覚醒させ、主体性を身に付けさるのが目的です。課題解決のアプローチはビジネスだけでのものではありません。自分が解明したいテーマを設定し、そのために必要な文献を漁り、調査や実験を通じて仮説を立て、証明し、自分の結論を導く・・・学問へのアプローチそのものです。

早く、学生たちを学問の入り口に立たせたい。自分の解を求める主体性を獲得できれば、分野は違ってもそれぞれの専攻分野で、自律的に学ぶことができるはずです。そうした学問追及の姿勢こそが、社会人としての基礎力になると信じています。キャリア教育の役割は就職対策ではないのです。

6月、2社目のプロジェクトが始まりました。学生にとっては、前回の失敗から学びリベンジする機会になります。

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