Career Leaves ブログ

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大学で教えるということ3:それから

大学の教壇に立つようになり、1年が経ちました。 秋学期は、キャリアデザインB、キャリア・ケーススタディ、ビジネス・コミュニケーションと、無謀にも3科目を立ち上げました。春学期の経験から新規開講科目は、1回の授業準備に丸2日必要ですので、準備だけで毎週6日潰れる計算です。きついとは分かっていましたが、思い切って踏み出さなければ何も始まらないと思い、始めました。でも、やればできるものです。乗り切れました。授業を創る、という強制力が働いて、やり切れたのだと思います。言い訳になりますが、そのためこのコラムも半年中断してしまいした。

終講時の学生アンケート調査では、授業満足度は5段階評価で3科目とも平均4.5以上。出席率は、春は履修生が1年生中心で90%を超えていましたが、秋は2〜3年生が半分で85%。それでも、教養科目で80%越えはかなりよいと聞きます。「単位のためにと思い軽い気持ちで受講したのですが、この1年間で一番ためになった授業だと思いました」、「今までに受けたことがないタイプの授業内容でおもしろかった。かなり実践的で汎用性のある内容で、一般教養独特の時間を無駄にしているのではないかという焦燥感がなかった」など、望外の評価も得ました。

教員が学生を評価するように、学生も教員を品定めしています。 話が上手とか、ユーモアがあって面白いとか、そんなことは重要ではないのです。実際、私は話がうまいわけではありませんし、ユーモアのセンスもありません。ただ、このテーマで学生に何を伝えるのか、そのために何を話せばよいのか、どんな授業法が有効なのか、を実直に考えて実行しただけです。教員が真摯な態度で授業に臨んでいるか、に学生は敏感です。ことばと態度に誠意があれば、下手な話でも学生は耳を傾けてくれるのです。

学生の高評価にホッとし、初めは単純に喜びました。でも、新規開講でまだ荒削りの私の授業がなぜこんなに評価されるのか、不安になり出しました。他の教養科目はどうなっているのか?

秋学期の開講時、私の科目を3つとも履修しようとしている1年生が少なからずいました。「キャリア科目は学期に1つでいい。いろいろな教養科目を取って、視野を拡げてほしい」とたしなめまたところ、「他に興味のわく教養科目がないんです」と言われ、私は返すことばが見つかりませんでした。ある3年生との雑談では、「1年の春学期はみんな概して真面目で、大学で学ぼうという意欲があります。でも、夏休みが空け秋学期が始まると、変わっていくんです。教養科目は楽単(楽に単位が取れる科目)のみを履修し、授業中も寝ていたり、他の科目のレポートを書いていたり、無駄話したり。真面目に取り組む学生もだんだん影響を受けて、周りがそうだから自分もテキトウでいいか、となっていきます」と言います。「教養教育は崩壊している」と漏らした教員もいました。

根は真面目で意欲をもって入学してきた学生たちが、初年次の教養科目でやる気を喪失させていく。確かに私自身、大学1年の頃、早く専門科目を取りたい、と思った記憶があります。今に始まったことではないにせよ、教養教育の改革、またはリメディアル(高校までの教科の学び直し)に留まらず自律的な学びを促す初年次教育が、各大学の大きな課題になっています。

私が勤務する大学でも教養教育の改善が検討されています。しかし、なかなか前に進まない現状があります。企業出身の私からすると、考えられない悠長さです。でも、全体が進まないなら、できるところから個々に進めればよいだけのことです。いわば、ゲリラ戦術です。できるところから始め、実績を知ってもらい、心ある教員に気づかせ、巻き込み、広めてゆく。

そこで4月からは、PBL: Project Based Learningという授業手法による科目を新設します。ちょっとベタですが、名付けて「Wake up! プロジェクト」です。いくつかの企業の協力により、その企業が新入社員研修で課すレベルの課題を与え、グループで解決策を提案させ、企業の方が上司の視点で評価コメントする。チームワークの稚拙さや論理構築の甘さを徹底的に叩いてもらって現実の厳しさを思い知らせ、学生を覚醒させる。荒療治ですが、それにより大学生活で何を学ぶか、動機付けを行うのが目的です。高校までの教科ではなく学問に取り組みたい意欲のある大学1年生、言い換えると授業に出席するのが当たり前の「高校4年生」意識の段階で、あらかじめ用意された正解を求めるのはなく、自分の解を探す学問の姿勢を身につけさせたいのです。

国立の中でも上位に属する大学に合格した学生たちです。学習能力も意欲もあるのに、それらを発揮する場がなく、満たされず腐っていく。その悪循環を打破すること。自律的な学びの姿勢に転換させ、学業を充実させることが、将来、社会人として企業組織に入ったときの基礎力になるはずで、これもキャリア教育の一環だと考えています。