Career Leaves ブログ

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さとり世代の学生たち

最近、「さとり世代」という表現をよく耳にします。 インターネットの掲示板で、自然発生的に生まれたことばだそうです。朝日新聞の記事(2013.4.24 朝刊)によると、年齢層としては、10代から20代半ばでゆとり教育を受けた世代にほぼ重なります。バブル崩壊とその後の景気後退の時期に幼少期を過ごしました。インターネットの普及で、ものごとの結果を先に知ってしまい、合理的に動きます。無駄な争いを避け、反抗期らしい反抗期がなく、親にも教師にも従順で、「ほどほど」が彼ら・彼女らの合言葉だ、とか。

さらにその特徴としては:

車やブランド品、海外旅行に興味がない。お金を稼ぐ意欲が低い。地元志向が強い。恋愛に淡泊。過程より結果を重視(して最初からあきらめる)。ネットが主な情報源。読書好きで物知り。

大学でキャリアデザインという講座を開講して1ヵ月が過ぎました。1年生を中心に履修生は54名。男女比は6:4、人文・社会・自然科学系学部からまんべんなく集まりましたので、大学の最大公約数的な学生たちです。

ほぼ満室に近い教室は、授業開始直前ざわついています。これは大きな声を出すか、教壇を叩くなどしないと静まらないかと当初思いました。ところが、マイクなしの普通の声で「では授業を始めます」と告げると、一瞬でシーンとなります。開講直後のせいもあるかも知れませんが、今のところ出席率は毎回95%くらいです。90分間、私語はありません。携帯端末をいじる学生もいません。たまに睡魔に襲われる学生を1〜2名見受ける程度で、とにかく素直で熱心というか、従順で驚いています。

毎回、授業評価のアンケートを取っています。学生の声として印象に残るのは、「誰か意見は?」と全員に問われても答えにくい、意見があったけど言えなかった、というもの。これは教師としての私の質問設定の問題であり、学生の積極性の問題でもあります。授業では手始めに、さまざまな個人ワークで自分の行動性向や他者から見た自分を浮き彫りにする作業に取り組んでいるのですが、これをするとどう役立つのか知りたい、という意見もありました。それは自分で考えてほしいのですが、結果や有用性を確かめないと安心できないのもさとり世代の特徴のようです。

開講時に、大学で学ぶ目的意識や自己理解度、将来の進路に関するアンケートを取りました。自分自身の強み・弱みについて理解していると答えた学生が多い一方で、他者からどのように見られているかはよくわからないと答えた学生が多いのが目立ちました。インターネットのSNSや携帯メールでのコミュニケーションが当たり前の世代ですので、同世代の友人を含めて交わりが表面的なのでしょう。

また、卒業したら社会人として働く意識が高いのが意外でした。一方で、何をしたいのかわからない、就職できるか不安と答えた学生が目立ちました。働くことに強い責任感、義務感を抱きつつどうしていいのか、何から始めていいのか分からないということのようです。前任の私立大学では、何をしたいのか分からないというのは同様でしたが、就業意識が希薄で、卒業後の進路、というよりも生きることにリアリティを感じていない学生が多かったのですが、国立大学の学生は真面目だなあ、と感じました。

その真面目で、受験を勝ち抜いた成績優秀な学生たちにも、2・6・2の法則が成り立ちます。集団の中では、優秀層が2割、普通が6割、残り2割に分かれるというものです。就活を例にすると、上位層は自力で動いて内定を取れる学生たちで、中間層は大学教職員のサポートを受けつつ内定を取る学生たち、下位層はかなり手取り足取りで面倒を見ないと難しい学生たちです。

上位の2割と下位の2割のアンケート結果を比較すると、大学で学ぶ目的意識、自己理解度、将来の進路の明確さすべてにおいて上位層は相対的に高く、下位層は低いです。下位層は、大学に来た目的があいまいで、自分に自信が持てず、将来の進路を考えると不安ということになります。大学入学時、多くの学生は現実離れの夢も含めて希望に満ちているか、受験からの解放感で羽を伸ばして遊びや新たな出会いに興奮しているか。いずれにしても、ポジティブな心境の学生が多いのではと予測していました。大学生活の中で、遊びほうけたり、より具体的な目標が見い出せなくなる過程で、2・6・2に階層分化していくのではないか、と私は考えていたのです。しかし、結果は入学段階から2・6・2の階層が存在していることがわかりました。

いわゆる不本意入学(第一希望ではない大学に入学)の学生が下位層かというと、必ずしもそうではありません。どうせ僕なんか…と気持ちを整理できず、または挫折感から立ち直れない下位層の学生が存在する一方で、受験では東大に行けなかった、でも社会人になったら東大卒に負けたくないと意欲的な学生(アンケートでは上位層)もいます。

上位の2割は黙っていても自分で未来を切り開く行動力のある学生です。係わり次第で上位層にも下位層にもどちらにも転ぶ6割の中間層と、学力はそこそこ優秀にもかかわらずすねている2割の下位層の学生に対し、私はどう手当てすればよいのか。「さとり」を崩す、または新たなモチベーションを創るキャリア教育が必要で、どうすればそれを実現できるのか、それが今年の課題になりそうです。