Career Leaves ブログ

キャリアプランを真剣に考えたいあなた、失敗しない転職活動をしたいあなたと向き合い、共に考えます。

大学で教えるということ

4月からある国立大学の講師になりました。 過日、田舎の父親にそのことを報告すると、「お前はそもそも、大学で何を教えるんだ?」と問われ、ことばに詰まりました。

まず通年で「キャリアデザイン」という科目を担当します。キャリア形成のベースになる知識や手法、具体的には自己理解、職業理解、就業の現状理解から、最終的に学生が自分の職業観を醸成することが目標です。私たち人間は自分が知っていること、経験したことからしかものごとを考えることができません。キャリアに関わる既知領域を拡げ、卒業後の進路選択場面において、自分らしい思考と行動ができるようになることを目指します。

秋学期は、上記に加え2科目を開講する予定です。一つは「キャリア・ケーススタディ」で、これは現役の社会人をゲストに招き、その方のキャリア遍歴やキャリア形成上の悩みを語っていただき、学生たちとディスカッションしようと考えています。経営層の方に経営論やリーダーシップ論を語っていただいたり、第一線で活躍中の方にビジネス成功事例を語っていただく、言わばロールモデルを示す講座は各大学に多く存在します。私は、普通の社会人の多くが直面するキャリアの壁、つまり職場での自律的なスキル形成や、結婚や子育てと仕事との両立、同僚や上司との人間関係の悩みなどを取り上げるつもりです。40年に及ぶ社会人人生の過程では、世代により、職種・役職により、性別により、さまざまなキャリアの転機が訪れます。学生たちが、リアリティある課題としてそれらを疑似体験することで、将来、壁にぶち当たったときの体力、免疫力をつけさせたいのです。

もう一つは、「ビジネス・コミュニケーション」という講座です。グローバル人材が求められる昨今ですが、仕事上の人との係わりは、日本人同士でも異文化コミュニケーションです。企画書・議事録・Eメールなどの論理的でわかりやすい表現技術、上司・同僚との協業のしかた、説得・説明のしかた、海外との連携・交渉術など、ビジネス上のコミュニケーションのありかたを学ぶのが目的です。気の合う仲間との学生同士の付き合いと異なり、ビジネス社会ではさまざまなバックグラウンドをもち、年齢も役割も異なる人々との協業になります。理論よりも具体的な事例や実践的なワークにより考えます。

・・・というようなことをシラバス(開講科目の概要説明)には書きました。 だから、何なんだ? 結局、何を教えるんだ?

父の素朴な疑問は、私には、私という人間に突き付けられた根源的な問いに感じられ、即応できずに、沈黙してしまいました。

それから、1か月余り、考えました。 そして結局、私は何も教えられない、と気づきました。 私にできることは、学生たちがそれぞれに自分の人生とはどんなものか、どうしたいのか、と考えるきっかけを作ることだけなのです。

「キャリア」の語源は、馬車の轍(わだち)、つまり馬車が通った後の軌跡のことです。キャリア形成論のような理論で教えられるものではありませんし、学べるものでもありません。それに私は、キャリア研究の学者ではありません。読者の皆さんと同じように、自分の現状に悩み、もがきながら歩んできた職業人の一人であり、キャリアコンサルタントとしてそうしたキャリア課題に向き合ってきた実務者でもあります。

理論よりも、自分の体験を経験化して提示するほうが、学生たちの役に立つのではないか。どうあがいても、それしか、できないではないか。そう考えたら、気持ちが楽になりました。

キャリア論とは無縁の、和菓子職人だった父に感謝。

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