Career Leaves ブログ

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新入社員の壁:今の状態から抜け出したい

学校という教えを授かる社会から、労働により周囲に貢献してその対価として賃金をいただく社会へ、庇護される場から自分で切り拓く場へ、その移行は新入社員にとって未知の体験です。誰もが多かれ少なかれ、さまざまな形で受ける試練ですが、傍で見ているよりもずっと深刻で、苦しいものです。その壁にどう立ち向かい、どう克服するか。それは社会人としてどんな人生を送るようになるか、その方向性を決める試金石でもあります。

相談者のプロフィール

阿部さんは女子大の英文科をこの春卒業し、社員数30名ほどの専門商社に入社しました。営業部に配属となり、営業事務やホームページの商品カタログ作りの仕事に携わっています。学生時代、就職活動がうまくいかず、今年1月になってやっと内定を得て、「とりあえず就職しなければと入った会社」でした。自分にとって第一希望の就職先ではないとしても、仕事は仕事と割り切れば乗り越えられると思い勤務を始めたのですが、入社4か月にして、就職活動をやり直したいと、人材紹介会社に登録したところです。

「学生と全く異なる社会人として生きていくためには多少の人間関係には眼をつむり、理不尽なことにも耐えていかなければならないとは考えておりました。しかし、思ったよりも上司の存在が大きく、自身のやる気をそぐ相手になっております。」相談依頼の文面は抑制が利いており、甘い幻想を抱いて就職した方ではないことが窺われます。ではそんな阿部さんの悩みとはどんなことなのでしょう。

相談者の悩み

上司の営業部長は30代後半。仕事はできるのですが、感情を抑えきれないところがあり、ちょっとしたミスでも部下を怒鳴る人です。時には、急ぎで待っているメールが届かない、というような部下の責任ではないことに怒鳴って周囲に当たり散らすこともあり、営業部全体が委縮して重たい雰囲気に包まれています。「学生時代、マクドナルドなどいくつか接客のアルバイトを経験しました。店長やアルバイト仲間とは仲よく、楽しく仕事ができました。怒鳴られたことなんてないんです。」罵声の洗礼を受け、阿部さんは仕事に集中できず、慣れない仕事でミスも目立ち、また怒鳴られるという悪循環に陥っているのです。ホームページの商品カタログ作りは、イラストを描いたりデザインしたりするのが得意な彼女にとって、能力を発揮できそうな分野のはずですが、そうした仕事にも興味が持てないと言います。

大学時代の友人の話を聞くと、皆、少なくとも彼女よりは恵まれた環境で勤務しています。もっとのびのびと仕事がしたい、結婚しても働き続けたいのでプライベートとのOn/Offの切り替えができる精神状態で働きたいという思いが募りました。イラストレーションやデザインに係りたい気持ちはありますが、専門に学んできたわけではありません。仮にそんな仕事に携われても、仕事はもっとハードになるでしょうし、人間関係に悩むこともあるはず。ユートピアのような会社はないと頭では分かっているのですが、「仕事とプライベートを充実させられる、自分が楽しめる仕事につきたい」と、転職活動を始めたのです。

課題の明確化

お会いした阿部さんは、相談依頼を受けた時の文面と同様、感情的な会話にならないよう抑制が利いており、ことばを選びながら語っておられました。職場に課題があるからといって短期で辞めては自分のためにはならないことも、重々承知しています。そもそも、希望する会社でないとしても仕事は仕事、と覚悟を決めて入った企業です。現職を辞めて、この仕事がしたいという明確な意思があって転職を考えているわけでもありません。

上司の、時に理不尽なプレッシャーにより委縮し、それが元で仕事が手につかなくなり、仕事そのものにも興味が持てない《状態》になっているだけです。「仕事はずっと続けたいです。早く一人前に仕事をこなせるようになって、プライベートも充実させたい。でも、できない自分がいます」と言います。彼女の本質的な課題は、「今の《状態》から抜け出したい」、つまり転職というよりも「仕事とプライベートを充実させられる、自分が楽しめる」ようにしたい、という点にあると感じました。

今後の対応策

短期での転職の場合、退職理由を納得できなければ企業側は採用しません。なぜ転職するのか、問題を克服するためにどんな努力をしたのか、つまり逃げていないかを厳しく問われます。それらに対する答えを持ち合わせていないことを、彼女も十分認識しています。それに、今の《状態》から抜け出す方策は転職に限らないのです。

今の《状態》から抜け出すステップの第一は、仕事や環境を自ら組み換えることです。まだまだ不慣れで入力ミスなどケアレスミスが目立つ阿部さんですので、まずは一つずつ作業を確認し、仕事のミスをなくす工夫をすること。確認作業は、やろうとすれば今日からできる小さな努力の積み重ねです。彼女には、日々反省ノートを付けることを提案しました。うまくいかなかったことについて、なにが原因かを考え、明日はこうしてみよう、とアクション項目をメモして意識に定着させ、実行することです。

そうして地道にアクションを重ねれば、3か月後、半年後、知らず知らずのうちに実力が着いてきます。仕事が一人前にこなせるようになれば、周囲の風景が変わります。見えていなかったものが見えるようになります。上司が彼女を見る目も変わり、関係も少しずつ改善されるでしょう。

自分が落ち着いて、仕事がこなせるようになったら、第二のステップです。自分は何がしたいのか、転職でそれが実現できそうか、改めて考えることです。今年の12月まで半年、第一ステップを続け、この会社でこれだけのことができた、という自負を持って、第二ステップを考えてみてはいかがですか、そうすれは転職活動の際、面接できちんと転職理由を説明できますよ、と提案しました。

「それくらいの期間なら頑張れそうです。早速、帰りにノートを買います。」 阿部さんは柔らかな笑顔で答えました。

仕事を一人前にこなして、上司ともよい関係になること。それが彼女の当面のゴールですが、すぐにそれを実現するには、と考えると、目の前の壁はとてつもなく高いものに感じられます。超えるのは無理、転職して場を変えよう、という短絡思考に陥りがちです。ゴールを半年、一年後に置き、階段を一歩ずつ登るように小さな課題を1つずつ解決していけばよい。そう捉えれば、壁は低くなります。