Career Leaves ブログ

キャリアプランを真剣に考えたいあなた、失敗しない転職活動をしたいあなたと向き合い、共に考えます。

人の心を動かすことばと姿勢がある

パートタイムで就活アドバイザーをしている大学での一こまです。 「就活、しなきゃだめですか? イヤだなあ。だって、アタシ、バイトでもミスばかり。仕事を覚えられないんですよ。紙に書いても、すぐ忘れちゃうんです。母には、お前を雇ってくれる企業はない、って言われてます。そんなに働く気ないし、就職はできないと思ってます。」3月にキャリアセンターに初めてやって来たとき、その女子学生は自分のダメさ加減をそう語りました。受けないことには内定は取れないのだから、まずは受けようよと話しましたが、あまり気乗りしない様子で、同じゼミの友達に付き合って時折キャリアセンターに来ては、「どうせ私は…」とブツブツ愚痴を言って帰ります。この学生は来年3月のまで就活が続くことになる、と私は心の中で頭を抱えていました。

熱心にES(エントリーシート)を書くゼミの友人の影響を受けてか、動き始めたのは5月です。ESに書く内容を私に相談するようになったのです。応募しては書類選考で落ち、たまに面接に進んでも、ボロボロに打ちのめされる日々が続きました。「どうせ、これも落ちるんだ」、がESを書く彼女の口癖になりました。兄は早稲田を出て大企業に入ったのだそうです。子どもの頃から優秀な兄と比較されて、親からは、お前は何をやってもダメだと言われ続けてきました。そんな幼児期からの体験もあってか、自己肯定感が薄い学生で、自分に自信がもてず、何事もやる前から諦めムードが漂います。

ところが6月、私が促さなくても、落ちても、落ちても、めげずに応募するようになっている彼女に気づきました。ゼミの友人は、二次、三次と面接が進むようになり、焦りを感じたのかもしれません。そして6月後半、「先生、またダメだ。集団面接で、周りの学生はスラスラ答えてるんです。私はできない。何か質問は、と訊かれて、『私、バカなんです。受けても、受けても、通りません。こんな私を雇ってくれるところがあるのでしょうか』って、言っちゃいました。周囲の学生は、クスッ、て笑ってました。やらかしました。」

彼女は集団面接の状況を説明してくれました。 悪くないんじゃない。その面接、通ったと思うよ、と私は言いました。

周囲の学生の話は、就活本にある模範解答のようで心は動かされません。「私はバカだ」と認めるところから始めた彼女の態度の方が、飾り気がなく人間味あるものに感じられたのです。どこの企業も優秀な人材が欲しいのは当たり前ですが、それ以上に大切な評価基準は、この人といっしょに働きたい、と思えるかどうかです。そして馬鹿し合いの仮面をかぶった就活エリートよりも、率直に自分をさらけ出した彼女の方が、面接官の立場で考えると魅力的に感じられるのです。

1週間後、彼女は一次面接通過の知らせを受けました。この面接を皮切りに、以降3社の面接を受け、すべてパスします。就活力の「開眼」です。自分を率直にさらけ出し、「のろまな亀だけど、仕事は一所懸命にやります」と、当たって砕けろ方式で挑む。彼女が知らず知らずのうちに編み出した独自の戦術です。

7月下旬、前述の企業の最終面接を終えた彼女から、「これからキャリアセンターに行きます」と電話が入りました。やって来た彼女は幾分強張った、今にも泣きそうな表情です。どうでした? 文字通り固唾をのんで、ことばを待ちました。彼女は無言のまま、黒い就活用バックから1枚の書類を取り出して、黙ったまま私に差し出しました。その書類には、何と、「内定通知」のタイトルがあるではありませんか。

「直接、見せたかった」、と彼女は泣き崩れました。「あなたの正直で真摯な人柄を評価しているし、ウチに合っていると思う。ぜひ来てほしい」と、面接終了後、社長さんはその場で内定通知に判を押して渡してくれたのだそうです。

前週に受けた他社の集団面接では、当社への志望度は何%ですか、と問われました。一人目の学生は「1億%です」と答え、二人目は「165%です」と答え、面接官は苦笑しました。三人目の彼女は、みんな100%以上、私も120%くらいは言わないといけないかしら、と引け目を感じつつも、「はい、90%です。説明会やこれまでの面接で御社の魅力を十分感じています。それが90の意味で、残りの10%は、現場が自分に合っているかどうか、まだ判断できないからです」、ときっぱり答えました。いつの間にか彼女は、そんな立派な発言ができる就活生になっていたのです。「やっと、まともな答えが聞けたよ」、と面接官には言われたそうです。

人の心を動かすことば、姿勢があります。 実直で飾らないことば、真摯な態度。そして、自分の愚かさ、至らなさを認めて受け入れる勇気。それができる人間のことばは、人の心に響きます。その大切さを、二十歳そこそこの女の子に教えていただきました。ここで就活アドバイザーの仕事をさせていただいて、幸せだなあと感じました。

ここに行くのね? 「はい、行きます。」受けていた4社の中で、私もここが一番合っていると思う。 2012年7月末、その女子学生はリクルートスーツを脱ぎました。

-----