Career Leaves ブログ

キャリアプランを真剣に考えたいあなた、失敗しない転職活動をしたいあなたと向き合い、共に考えます。

偶然を必然に換える

キャリア形成の研究の一つに、社会学習理論と呼ばれるものがあります。キャリア発達には:

・ 遺伝的要因(人種、性、身体条件、性格、知能など)

・ 環境的要因(経済状況、社会状況、地域状況など)

・ 学習経験(これまでの経験から学んだこと、得たスキルなど)

の3つがあります。それらのうち、最後の社会的学習のプロセスに着目した理論です。

成功体験がキャリアを拓く

スタンフォード大のジョン・D・クランボルツ教授は、学習プロセスは周囲からの「プラスの強化(フィードバック)」と「マイナスの強化」により成り立つと言います。プラスの強化を受けると引き続きその行動を進め、マイナスの強化を受けるとその行動を止めたり、諦めたりするのです。プラスの強化は成功体験、マイナスの強化は失敗体験と置き換えるとイメージが湧きやすいですね。

たとえば、初めは本人にとってはあまり興味のない、上司に命じられてしただけの仕事でも、よい成果を挙げて褒められたり、自分なりの達成感を感じる(プラスの強化)ことで、その仕事に興味を持ち、さらに努力を継続するのです。その行動が、さらに大きな成果に繋がったり、自分はこの分野の専門家として頑張ろうというキャリア選択の要素になったりします。

筆者自身の例で言うと、私は学生時代、新聞記者を目指していましたが、夢かなわずNTTに就職しました。3年後、営業からマニュアル制作手法の研究プロジェクトに転勤になるのですが、それは私の意志ではもちろんありませんし、「取説って何?」状態から始めました。しかし、技術的な情報を「取扱説明書」というユーザー向けの情報に翻訳する作業は思いのほか奥深く、興味深く、いつしかこの道のスペシャリストになろうと考えるようになりました。以来、大学院留学を含めマニュアル、さらにはコミュニケーションのありかたを考えることに没頭し、現在に至ります。あの、単に命ぜられたから取り組んだに過ぎない行動から、新たなことを知る喜びや研究成果というプラスの強化を受けて、キャリアの意志決定とその後の社会人人生に大きな影響を及ぼしたことになります。

計画された偶発性理論

クランボルツはさらに1999年、Planned Happenstance Theory(計画された偶発性理論)を提唱しました。その要旨は、「キャリアは偶然に起きる予期せぬ出来事で8割決まる。偶然の出来事が起きる前には、その偶然を引き起こすさまざまな自分自身の行動が存在しているはず。つまり自分の行動がある意味必然的にその偶然を誘発している。むしろそれら偶然の出来事を積極的に活用して、キャリア形成に活かすべき」という理論です。

確かに、職業上のキャリア形成も、広く人生も、計画した通りに進むものではありません。医学部の学生など、高度に専門的な職業訓練を受けた一部の若者をはぶき、こんな職業に就いて、10年後、20年後にはこうなって・・・と思い描いたことを実現できる人はほとんどいないでしょう。大多数の学生は、偶然の巡り合わせである企業に採用され、ある部署に配属され、ある仕事に就きます。その偶然の職業体験から、人はそれぞれに何かを学び、自分らしいキャリアを拓いていくのです。それは就職後も同じです。

前述の筆者の話で、大勢の候補者の中からなぜ自分がマニュアルの部署に選ばれたのか、本当のところは分かりません。当人のあずかり知らぬ、組織間のさまざまな思惑やポリティクスの結果だったのでしょう。しかし、新聞とは係わりのない営業の仕事に携わりつつも、常に簡潔で分かりやすい文章を心がけ、他の社員なら数回書き直しさせられる報告書類を、修正なしで局長まで承認印をもらうことができていた事実も、人選要素のほんの一部には入っていたように思います。

そうなることを意図していたわけではありませんが、私自身の行動がマニュアル部署への転勤という必然的な偶然を生み、文章を書くのが好きな自分の嗜好にも合って、マニュアルの世界にのめり込んでいったように、振り返って思うのです。「振り返って思う」と書きました。それは当時の私にそれほどのキャリア意識がなかったからであり、こうすればこうなるという計画もなかったからです。たとえ何かを意図して行動しても、その意図通りになるものではないでしょう。意図しているかどうかはともかく、自分が何かを目指して行動したことに起因して、予期せぬ偶然の出来事が引き起こされます。それを迷惑な出来事と捉えてやり過ごすか、自分のキャリアを拓くチャンスと捉えて一歩前に進むかは本人次第です。

必然的な偶然を導く

さらにクランボルツは、予期せぬ出来事を必然的な偶然に換えるには、5つの思考パターンがあると述べています。

・ Curiosity:好奇心を持ち、広げる

・ Persistence:すぐには諦めず、やり尽くしてみる

・ Flexibility:状況の変化に伴い、一度意思決定したことでもそれに応じて変化させればよいと考えてみる

・ Optimism:大半の悲観的なコメントよりも、たった一人の前向きなコメントを心に置いてみる

・ Risk-taking:失敗はするものだと考え、今ある何かを失う可能性よりも、新しく得られる何かにかけてみる

かつてキャリア目標は、役員や部長を目指す、というように割と単純明快で、いわば富士山に登山するように、頂上という唯一、固定のゴールを目指し一合目、二合目と計画を立て進んでいけました。今やビジネスのありようは大きく変化し、今も変化し続けています。企業の事業計画も、個々人に求められるスキルも、せいぜい2〜3年先は見えても、その先のことは分かりません。インターネット業界に至っては、半年先も闇かもしれませんね。その意味で、現代のキャリア形成は筏(いかだ)くだり。川は曲がりくねり、少し先までしか見通しが利かず、緩やかな流れと激流が交互に訪れ、あちこちに予期せぬ難所があり油断していると岩場に乗り上げかねません。

自分にこだわりつつ、好奇心と柔軟性をもって偶然の出来事に対処し、ここぞというチャンスには楽観性をもってリスクを取る。こうした時代だからこそ、こうありたいと考え、行動し、その思考と行動により引き起こされたかもしれない予期せぬ出来事を自分のチャンスに換える意識と行動力が求められているのではないでしょうか。