Career Leaves ブログ

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メンタル疾患:快復と復帰を模索する

職場でのストレスからうつ病自律神経失調症などを発病し、休職し、最終的に退職なさる方が後を絶ちません。『労働者健康状況調査』(厚労省H19年)によると、職場で強いストレスを感じる労働者は、全体で58.0%(正社員61.8%、契約社員56.2%、パート40.3%)にのぼります。ストレスの主要因は、職場の人間関係が38.4%、仕事の質が34.8%、仕事の量が30.6%です。メンタルヘルスが原因で休職・退職した労働者がいる事業所は、1000人以上の企業で92%、300〜999人規模で67%、100〜299人規模で38%だそうです。少なくとも300人に1名くらいの割合で、メンタル疾患で休職なさる方がいるのかもしれません。

程度の軽重はあれ、自律神経失調症うつ病で苦しんでおられる同僚の方が、読者の皆さんの周囲にもいらっしゃるのではないでしょうか。第一線で活躍している、言わばその企業や組織の大黒柱的存在の方で、激務をきっかけに精神的な負担に起因する病に突然陥る方が増えています。休職または退職により一旦職場を離れて、ゆっくり休養することになりますが、快復後の職場復帰や再就職が大きな壁になっています。

メンタル疾患は、私には専門外のことであり、キャリアコンサルタントとしてはどうすることもできないのですが、今や、メンタルヘルスを抜きにして職業キャリアを語れないのが実情でもあります。実際、今年(2011年)もうつ病による休職・療養を経て、社会復帰を目指す方の相談を3件受けました。今回は人物を特定せず、そうした人々を取り上げます。

病気になる経緯

インターネット関連のシステム開発に携わっているある男性は、29歳の若さで開発部門の責任者になり、新しいサービスを開発する仕事に取り組みました。前例のないところを手探りで切り拓きつつの仕事です。部下6名のうち2名が激務のため体調を崩し相次いで休職しますが人員の補充はなく、彼がそれら2名の仕事も引き受けて踏ん張ります。そして数ヵ月後、彼自身が吐き気や目まいに襲われ、自律神経失調症と診断され休職を余儀なくされました。幸い1年後、体調はほぼ回復し復職を申し出ましたが、会社側に断られてしまいます。リーマンショック後の経営状況が思わしくなく受け入れる余裕がないこと、同じように病気休職から復帰して短期で退職した前例があることがその理由だそうです。

30代前半の別のエンジニアの方は、アルバイトで学費を稼ぎつつ苦学して国立大学を卒業し、システム開発を手掛ける大企業に入社しました。プログラムのバグ(システムの不具合)解析能力に優れ、他のエンジニアが投げ出してしまったバグも引き受けて解決してしまいます。職場内でも自然と頼りにされ、困難なバグ処理が彼に集中しました。東北人気質の粘り強さも手伝ってか責任感が強く、毎日午前3時、4時までバグ処理に没頭し、土日も出勤する日々が半年続きました。彼自身は、疲労感はあっても仕事への気力は十分で、自分がやらねば、と頑張りました。そんなある朝、目が覚め、さあ会社に行こう、といつものように思ったのですが体が動かず、しばらくベットから起き上がることができなかったそうです。それが始まりで、駅のホームで電車のドアが開いても足が一歩前に出ない、気がつくと会社とは反対方向の電車に乗ってしまう…、と出勤する意志はあるにも拘らず体がいうことを聞かない状態になりうつ病と診断されました。

病気に陥る人のパターン

各企業とも人員が削減され、一人ひとりの労働が過重になっている現状では、彼らのように有能で責任感のある人材に負担が集中します。激務の末に病気になるとは、ご本人の気力とは別の次元で、人間としての体がある限界点を越え、生命維持のための非常ボタンが強制作動したということなのでしょう。しかし、ひたむきに働いた結果が、病気や退職では悲しすぎます。

病気になる方に共通する性向の第一は、真面目で責任感が強いこと。つまり「私がやらねばならない」と、限界まで頑張ってしまう人です。第二に、優等生で完璧主義なこと。「この仕事はこうあらねばならない」、「なんとしても期待される成果を挙げなければならない」と手が抜けない人です。この「ねばならない」思考といいますか、非合理的信念が、限界まで頑張る行動の原動力になっているように思います。

病気からの快復と、復帰の課題

休職・療養し、専門医による化学療法を受けることで、ひとまず病状を回復させることはできます。しかし、前述の非合理的信念=「ねばならない」思考を改めない限り、復帰しても、また頑張りすぎて再発する恐れがあります。投薬だけでは、本当の意味での快復にはならないのです。この「ねばならない」から、「そうできるのがベストだけど、現状では次善の対応としてここまでしよう」という思考が無理なくできるように、自分の思考様式を変革することも必要なのです。この点については、「コンサルタントの視座14 自分の課題をセルフカウンセリングする」で、論理療法を紹介していますので、そちらをご参照ください。

さらに、快復しても受け入れ側の課題があります。『心の健康問題により休職した労働者の職場復帰支援の手引き』(厚労省委託 中央労働災害防止協会、2010)には、主治医から職場復帰OKの診断書が出された後、受け入れ事業所での対応方法や、段階的な復帰のステップが示されています。しかし、人員配置に余裕のない職場では、本人に負担がかからないような段階的な復帰は難しく、昨今の経済状況からも受け入れの余裕がないのが現状です。結局は、休職満了に伴い退職となるケースが多いようです。

SEのようなハードな仕事では、そもそもエンジニアリングの現場に戻れるのか、という疑問もあります。仮にキャリアチェンジを図ろうとしても、転職市場は経験者採用、即戦力が原則です。メンタル疾患の病歴のある方を、承知の上で雇用してくれる企業も少ないでしょう。キャリアコンサルタントとして答えは見つかりませんが、これからも向き合っていきます。