キャリアの軸を意識していますか
転職を含めキャリア選択の場において、絶対的な正解はありません。あなたが納得して選んだ道が、あなたにとっての正解なのです、とキャリア相談に訪れた方に申し上げます。
キャリアカウンセリングの研究者・宮城まり子さんも、その著書で「個人の顔がそれぞれ異なるように、個人のライフ・キャリアも多様であり、一概に『よいキャリア、悪いキャリア』もなければ『優れたキャリア、劣ったキャリア』もない。現在、社会・個人の価値観、価値基準は複雑に多様化しており、一律にキャリアを測る尺度はない。」と述べています。(『キャリアカウンセリング』宮城まり子、駿河台出版 2002年刊)
冒頭の、「・・・あなたが納得して選んだ道が、あなたにとっての正解なのです」の後には、「最も不幸なのは、納得して選んだはずが、少し進んでから振り返り、やっぱりあちらの選択肢の方がよかったかも、と後悔することです」、と付け加えることもよくあります。
では、どうすれば後悔しないキャリア選択ができるのでしょう。
選んだ後に後悔するケースを見てみると、目先のことのみに焦って、ある選択をしてしまった方がほとんどです。どうしてもここまでに転職先を決めたい、直近のこの経験を活かしたい、賃金や役職などの条件がいいなど、もちろんそれらはご本人にとって切実な課題ではあるのですが、本質とはズレた判断軸で決断してしまったのです。
キャリア理論の研究者・シャインは、《キャリア・アンカー》という概念を提唱しています。個人のキャリアのあり方を導き、方向づける軸を「錨」にたとえた表現です。何のために働くか、何を遣り甲斐と感じるか、など社会人人生において自己実現の拠り所となるものが誰にもあり、その錨を軸にしてキャリア形成を図るべきという考えかたです。シャインは、キャリア・アンカーとして以下の8つを挙げています。
①専門コンピタンス
企画、営業、エンジニアリングなど、特定分野で能力を発揮することに幸せを感じる。
②経営管理コンピタンス
組織の機能を結びつけ、対人関係を処理し、集団を統率することに幸せを感じる。
③安定
仕事の満足感、雇用の保証、年金、退職金など経済的安定を得ること、1つの組織に勤務し、忠誠・献身。
④起業家的創造性
新しいものを作りだすこと、障害を乗り越えること、リスクを恐れず何かを達成する。達成したものが、自分の努力によるもの、というのが原動力。
⑤自律(自立)
組織に縛られず、自分のしかたで進める。仕事のペースを自分の裁量で決める。
⑥社会への貢献
暮しやすい社会の実現、他者の救済、教育など価値あることを成し遂げる。転職してでも、自分の関心分野で仕事をする機会を求める。
⑦全体性と調和
個人的欲求、家族の願望、仕事とのバランスに力を入れる。自分のライフワークを求める。
⑧チャレンジ
困難な課題の解決、手ごわい相手に打ち勝とうとする。競争に遣り甲斐。目新しさ、変化、難しさが目的。
シャインは1978年に⑤までをキャリア・アンカーとして分類しましたが、後に⑥〜⑧を付け加えました。仕事やそれにまつわる経験・スキルだけでなく、私生活や社会との調和など、《ライフ・キャリア》の観点から働きかたを捉える重要性が高まった故でしょう。こうした自分自身が大切にしているキャリア・アンカーと、所属する組織や自分の役割からくるニーズ、さらには社会との調和がキャリア開発には不可欠です。
私自身のことを振り返って考えると、⑤自律(自立)、⑥社会への貢献がキャリア・アンカーとして強く、特に若い頃、独身の頃はそうで、年を経るにつれ、結婚し子どもができるようになり、徐々に⑦全体性と調和も大切にする志向になってきているように思います。逆に、②経営管理コンピタンス、③安定には、元来あまり重きを置いていません。キャリア選択の場では、こうした、自分が大切にするキャリアの軸を意識することが大切です。皆さんはご自身をどのように捉えていますか。