Career Leaves ブログ

キャリアプランを真剣に考えたいあなた、失敗しない転職活動をしたいあなたと向き合い、共に考えます。

子育てと夫の転勤と:しなやかに働く

今回は、キャリアコンサルティングというよりも、雑談ベースで伺ったお話を紹介します。産休・育休から職場復帰した山下さんと、2年ぶりにお会いしました。

挨拶もそこそこに、女性が子育てしながら働くときの課題は何ですか、と質問すると、「保育所不足など子育て支援体制、配偶者との家事・育児の分担、勤務先の上司の理解、それと自分自身の価値観の明確化かしら。」初めの3つはよく聞くことです。が、最後の「自分自身の価値観の明確化」はあまり耳にしない答え、と心に留めました。

山下優子さんは39歳。千葉大学の理系を卒業し、大手メーカーで設計の仕事に取り組み、10年ほど前に当時脚光を浴びていたインターネット企業に転じました。5年前に第一子出産のため1年ほど産休・育休を取得して職場復帰していますので、今回が2度目になります。本来なら昨年の秋、職場に戻る予定が近隣の保育所不足により入れず、半年遅れで復帰が叶いました。産休を含め、約2年ぶりの復帰です。

職場に戻って早々、今後のビジネスプランを見せられて、一瞬心躍ったそうですが、私にやらせてください、とは言いませんでした。「今は、子供のことが大事です。確かに新しい仕事には魅力がありましたが、同じことの繰り返しでこれを手掛けても進歩がないかも、とも感じました。それに、このプランなら私でなく他の誰かがするほうがうまくいきそう、とも思ったのです」と、あっさりした答えが返ってきました。

仕事は自己実現の場であり、自分自身の思いを仕事に込める。人がどう評価するかではなく、自分の企画がビジネスとして形になるかどうかで自分の仕事を評価する、と現職企業のコアサービスに長年係わり、企画担当の役割で成果を挙げてきた人です。そのコアな仕事に就かない悔しさや、迷いのようなものが感じられないのです。肩すかしを食ったような違和感を覚えながら、私は話を聴いていました。

第一子を出産した後も時短勤務で戻り、必要な会議に出られないもどかしさを感じつつ、限られた時間で最大限のパフォーマンスを挙げようと頑張りました。出産前なら、きょうはどの店にしようか、と同僚と連れだってランチに行きましたが、その時間も惜しいと軽食で済ませる毎日でした。「情報交換の方法は他にもありますし、同僚とランチに行くことよりも大切なのが仕事の時間のやり繰りなのです。子供ができる前に比べて、仕事はずっと効率的にできるようになったと思いますよ。」

実は、職場復帰と同じタイミングで彼女の夫が海外駐在になり、山下さんも秋には退職して駐在先に赴く決断をしました。「少し前から、そろそろ自分で何かを始めることを考えたい、という思いも芽生えていました。私、石橋を叩いて壊すタイプなんです。今回は夫の海外駐在で、背中を押してもらった感じです。」

海外駐在がなかったら、その仕事を受けていますか、と意地悪な質問を投げかけましたが、「しているかもしれませんね」とやはり、穏やかに笑っておられました。

肩肘張って仕事に、子育てに奔走するキャリアウーマンの姿を想像(期待)していた私には新鮮でした。働くこと、生きることへのしなやかさのようなものを山下さんには感じるのです。それになによりも、幸せそうなのです。

人生の価値観は人それぞれです。「産休復帰」、「時短勤務」、「夫の海外転勤」、そして「退職」とキーワードだけを拾うと、子育てや夫の仕事に翻弄され、苦悩する働く女性像を思い描きがちです。実際、そうして自分のキャリアを犠牲にする、または犠牲にしていると感じる人もいらっしゃることでしょう。では、そうした人と山下さんの違いは何なのでしょう。同じ状況でも、捉えかたで幸せの度合いは全然違う。

彼女とパートナーは結婚当初から、仕事はあくまでも家族のため、仕事を家庭に持ち込まないという考えだったそうです。山下さんの言う「自分自身の価値観」はその考えかたに立脚しているようです。人生の幸せは、パートナーや子供たちとの生活にある。仕事は自己実現の場であり、思いを込めてそのときの状況で自分が納得できることをする。が、こだわらない。状況の変化に応じて、新たな自己実現の場を見つける。そんなしたたかささえ感じます。

女性であろうと、男性であろうと、肩肘張って仕事に、子育てに、闘い続けるのは疲れます。一時的には頑張れても、長くは続きません。それにきっと、《幸せ》を十分には感じないような気がします。やっても、やっても満たされない何かが残る感覚です。自分自身のブレない価値観をもって、状況に応じて戦術を変化させつつ、しなやかに生きられたらいいですね。

-----