Career Leaves ブログ

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仕事の日常を離れて自分を見つめる

今回は旧知の方との雑談レベルでのお話を紹介します。大熊さんは42歳のシステムエンジニア慶應義塾を卒業後、歴史ある日系大企業に就職します。文系出身で事務系としての採用であり、ご本人が希望したわけでもないのですが、社内情報システム部門に配属となり、以来ずっとエンジニアの仕事です。意図せずに就いたエンジニアの仕事が、彼の適職でした。「営業にいくのかと思っていましたが、会社はエンジニアに適性が合うと判断したのでしょうね。まあ、最初の1〜2年は苦労しましたが、仕事は楽しいです」と言います。

10年後、当時立ち上げ間もないインターネット関連ベンチャー企業に転職し、システム部門のマネージャーとして、ビジネスと組織が急拡大する過程を身をもって体験してきました。その10年の節目となる今年、今や代表的インターネット企業に成長した現職での地位を捨てて退職し、MBA取得に向けて学問漬けの毎日を送っています。経営者になるための布石というよりも、「仕事の現場を一旦離れて学生時代疎かにしてしまった勉強に没頭したい。その没頭の中で見えてくるであろう何かに、その後の人生を賭けたい」、という思いからの決断でした。卒業したら、やはりシステムエンジニアベースの仕事に戻るつもりです。

大学院でさまざまなバックグラウンドの社会人学生と財務やマーケティングのシミュレーションに取り組み、趣味のパイプオルガンを習ったり、学業の傍ら知人の会社のシステム開発を手伝って毎日を送っているそうです。さらにこの夏、お子さんが生まれ、成長の記録をブログに綴ったりもしています。システムエンジニアとして走り続けたこれまでの20年とはまったく異質な濃密さをもった時間が、今の大熊さんには流れていることでしょう。このリッチな時間の先、彼の心にどんな沈殿物をもたらすのか。今の彼にも確かではないかもしれませんが、人生の転機になる何かであることは間違いないはずです。

会社員としてブランクができることを不安に思う方、MBA取得に疑問を感じる方もいらっしゃると思います。確かに、40歳を過ぎた彼にとってMBA取得はキャリアアップの道具にはあまりなりません。卒業後の就職を考えると、ブランクができることと差し引きゼロ、場合によってはマイナスかもしれません。彼自身、MBA取得そのものに意義を感じているわけではないのです。20年慣れ親しんだ仕事漬けの日常からほんの少し離脱して、自分を見つめ直す時間を確保することが大切で、その刺激剤の一つがMBAだったり、オルガンだったり、子育てだったりということです。このブランクは、これからの20年を構想する下地として、彼にとって貴重なのです。筆者も、この体験が大熊さんの人生をさらに豊かにするものと期待しつつお話を伺いました。

自分を見つめる、少し長めの時間を作れることは、とても幸せなことです。金銭的に余裕があるからこそ、こうした贅沢な時間を実現できるわけですが、それはこれまでの彼の努力の結果でもあります。そして何よりも、仕事を離れて人生の転機になるブランクを設ける決断をした彼の意志の力です。

転職先が決まった方に筆者は、「入社まで、せめて1ヵ月休みを取ってはいかがですか。家事を手伝いつつ家族とゆっくり過ごすのもよし、海外旅行に出かけるのもよし、普段行けない語学学校に集中して通うのもよし…。40年働き続けるのですから、1ヵ月くらいそんな非日常があっても悪くないのでは? あなたの人生にとって貴重なひとときになるはずですよ」とよく申し上げます。

大卒で社会に出て働く期間は約40年、人生80年とするとその半分は職業人としての人生ということになります。まだ20代の若い方にとっては、実感の湧かない気の遠くなるような道程かもしれませんし、50代の方にとっては、がむしゃらに働いて気がついたらここに来ていた、ということかもしれません。その40年の流れの節目に、ささやかな休止符を打つことで、普段見えないものが見えてきたりします。

1年仕事を離れるなど、とんでもないと多くの方は感じるでしょう。でも、40年の職業人人生の時間軸のなかでは、束の間に過ぎません。1年と言わないまでもせめて1ヵ月、明日の自分のために、「空白の時間」という投資をしてみるのもよいものです。普段見えていない何か、あなたが心底大切にしたい何かが見えてくるかもしれません。それが見えたら、あなたの人生は、いっそう豊かになります。

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