Career Leaves ブログ

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30代女性の自分探し:優等生の鎧を脱いでみる

人は皆、企業組織の中で課せられた役割を遂行したり、目標を達成するために頑張ります。その取り組みに迷いなく臨めれば、遣り甲斐を感じますしパフォーマンスも上がります。しかし、違和感を抱きつつの取り組みの場合、仮に結果が出たとしても、ご本人が根本的に満たされることはないでしょう。この満たされない感覚は、お腹の底に不純物として蓄積されボディーブローのように効いてきます。

相談者のプロフィール

横川さんは、喋りの早さに頭の回転の切れを感じさせる33歳の女性です。北海道大学卒業後、日本有数の大企業に就職し携帯電話関連の事業に携わります。教育体制のしっかりした企業でしたので、仕事の進めかた、顧客対応のしかたなど社会人として基礎を身につけつつ、サービス企画の仕事に取り組みました。仕事を一通りこなせるようになった20代後半、自分を育ててくれた現職企業に感謝しつつも、ある種のもの足りなさを感じるようになっていました。より自由に裁量をもって動ける組織で、もっと高いハードルを自分に課して可能性を試したい。そんな思いから、30歳の節目に携帯コンテンツサービスのベンチャー企業に転職し、モバイル広告の提案営業、サービス企画の仕事に取り組んでいます。前職の伝統的日本企業とは正反対のカルチャーの会社です。何事も、下から順番に報告を上げ、上から順番に降りてきた方針に基づき与えられた役割をこなすやりかたから、自分で企画し、自分で動き、結果に責任をもつスタイルへ。180度の転換でしたが、そんなベンチャーの仕事のしかた、スピード感が彼女には合っているようでした。

1年目はなかなか結果が出せずに苦労しましたが、2年目は目標値をクリアできました。大きな数字(売上目標)を任されて、激しいプレッシャーがある中での成功体験です。どうすれば目標を達成できるのか、その筋道が感覚的に掴めたことが自分にとって大きな収穫だったと考えています。一方で、結果のみを追求して社員の育成やキャリアパスに配慮しない企業側の体質や、出した結果に報酬という形で十分には報われていない、つまり評価されていないことに不満を感じ始めてもいました。毎日終電までの激務の2年間でした。3年目、新たな顧客企業を開拓する仕事を任されます。最初は一人だけでスタートしましたが、半年後に1名部下がつき、目標値をクリアしました。4年目、この仕事を軌道に乗せられれば、担当者から事業責任者へのステップアップに繋がると頑張ってきました。

相談者の悩み

現在、入社当時ほどのプレッシャーの激しさは感じることなく、心的負担は少し軽くなりました。社員の評価制度も少しずつ整い、環境や処遇には概ね満足しているそうです。ただ、4年目の今年はさらに高い目標を設定され、思うように数字が伸びず苦労しています。「今一歩、突き抜けられないんです。できることはすべてやり尽くした結果として数字が上がらない、そんな手詰まり感かというとそうではなくて、80%くらいしか力を出せていないような気がします。なぜそうなのか、がわからないんです」と言います。ネットベンチャーの世界は、平均年齢が若く、変化も激しいですので、営業の最前線は体力的にもせいぜい30代前半まで、それまでに事業推進者・責任者としての力量と実績をつけないとその後、組織の中での存在価値が薄れます。早く結果を出して相応の評価を得て、営業中心からモバイル広告の仕組みを創る事業企画系の仕事にシフトすることが横川さんの当面のキャリア目標なのですが、結果が出なければそれも実現が難しくなります。

「これは薄々感じていながら、それに触れてはいけないと避けてきたことなのですが、私はモバイルサービスに携わることが嫌いではないけど、それほど好きでもないのかも知れません。もちろん仕事ですので、必要に応じた知見を身につけ、最新の動向に目を配ることは苦ではありません。でも個人的に、私にとって携帯は情報端末というより電話でしかないんです」。1時間ほどあの手この手で話を伺った後、やっとリアリティを感じることばが彼女から語られ始めました。

課題の明確化

ネットビジネスで収益の仕組みを創ることに、横川さんは確かに興味と遣り甲斐を感じています。一方で、彼女が打ち込めるテーマが携帯電話またはモバイル広告という分野かというと必ずしもそうではなさそうです。それが80%しか力を出せていない、突き抜けるあと一歩の突破力に繋がらない要因ではないでしょうか。

「これは薄々感じていながら、それに触れてはいけないと避けてきたこと」、と横川さんは前置きして語りました。その奥には、他の人にできることなら自分にもできるはず、仕事で弱音を吐いてはいけないという負けず嫌いの姿勢、言い換えると、無理をして《優等生》であろうとする彼女がいるようです。そうして頑張ったからこそ、国立大学に入り、前職でもアットホームな社風が物足りなく感じるほど活躍してこられました。その優等生であり続けることに倦怠を感じ始めているのではないでしょうか。

さまざまな業界の営業の方と向き合ってきた私の経験から思い起こすと、結果を出している営業マンは、対象商品・サービスや顧客に対して迷いがありません。または余計な迷いを捨てる割り切りのよさがあります。集中して力を発揮するからこそ、壁を突き抜けて結果に結び付けられるのです。その突破力がある方がしていることと、あと一歩のところで壁が越えられない方の努力との差は紙一重で、ちょっとした心がけの差だったり、今日すべきことを今日実行できるか、それとも明日に引き延ばすかくらいの差でしかありません。しかし、そのほんの少しの実行力の差が、結果として大きな差を生むように思います。

今後の対応策

一度はその突破の感覚を掴んだかに見えた横川さんが、なぜ今、あと一歩前に進めないのか。彼女の行き詰まり感は、どんなに有能な方でもステップアップの節目節目でぶつかる壁に過ぎないのか、それとも根源的に、モバイルサービスがさほど好きではないという本音の部分が大きいのか。今の彼女にはまだモヤモヤした状態で、やっとそのモヤモヤに向き合う気になったところともいえます。

優等生であることがよくないこととは思いません。ただ、彼女自身の中で負担が大きく持て余し気味になっているのなら、これからは無理に優等生であり続ける必要はないとも考えます。無理を重ねて仕事で成功したところで、心に空いた穴は満たされないからです。

横川さんの場合は、一旦、優等生の鎧を脱いで、彼女自身が働く動機を確認することです。優等生たらんとする意識は、子供のころから培われてきたもののはずで、職業体験の棚卸だけでは答えはでないでしょう。彼女には、集中的に自分史を書く作業をお願いしました。過去の印象に残る出来事が何だったのかを振り返り、自分が何者なのか、どこに行こうとしているのか探るための作業です。その結果、現状の行き詰まり感を克服する糸口が見つかれば、この道で頑張ることもできます。モバイルビジネスとは別のところに彼女が本質的にしたいことがあるならば、33歳という年齢からしても、モバイルの世界に長居は無用です。要は、自分自身の《働く動機》を確認し、その動機のベクトルと仕事の取り組みかたを一致させる道を選ぶことであり、その判断ができるのはご本人のみなのです。

なお自分史を書く試みについては、拙文「自分史を振り返る」もご参照ください。