Career Leaves ブログ

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早期退職勧奨・茨の道を切り拓く

長年勤めてきた会社、このまま定年までと当たり前のように思っていた勤務先の上司から、不意に「実は早期退職制度ができてね・・・」と退職を勧奨されたら、あなたはどうしますか。これは、どんな会社でも、自分は会社に貢献し必要とされていると思っている方にも、訪れるかもしれない一場面です。

相談者のプロフィール

山下氏(仮名)は51歳のシステムコンサルタントです。文系出身ですが、学生時代からコンピューターに関心を持ち、80年代前半の新卒当時、脚光を浴びていたSEの世界に入りました。以来30年近く、企業内で使う財務会計、原価管理、販売管理などのシステム構築で経験を積み、業務フロー改善を含め、企業のITシステム全体を最適化するコンサルタントとして活躍しています。1度転職していますが、部門ごとの移籍ですので、実質的な転職活動の経験はありません。

相談者の悩み

私とお会いする2週間ほど前、山下さんは上司より不意に早期退職の勧奨を受けました。昨今の不況の影響もあってプロジェクトが減り、人員が余り気味の状況です。早期退職を拒否すると、今後どのような仕事にアサインされるか、定年まで残れるかは不透明、一方なにがしかの割増退職金を受け取って退職しても、年齢と経済状況を考えると次の仕事が見つかるか不安があります。退職勧奨を受け入れるべきかどうか、迫る回答期限を前に逡巡し、「残るも地獄、出るも地獄」と苦笑しておられました。

課題の明確化

山下さんが私のキャリアカウンセリングに期待していたのは、早期退職のメリット・デメリットや、ご自身が転職市場で価値ある人材なのかどうか、について客観的なアドバイスを得ることでした。しかし、お話を伺って、彼の中ですでに答えは出ているように感じました。現段階では残る方がよいのではという答えです。その答えを納得するために相談に来られたのでしょう。さらに、彼の悩みの本質、言い換えると私がキャリアコンサルタントの責務としてアドバイスしなければならないポイントは、退職の是非とは別のところにあることも分かりました。つまり、職業人またはエンジニアとして集大成を迎えるこの10年をどのように過ごすべきか、という課題です。

彼が社会に出た80年代前半は、多くの場合、終身雇用・年功序列の仕組みが機能していた、またはまだ機能しているかに見えた時代です。現在の40代後半以上の方々で、新卒当時、将来自らの意志で転職する、もしくは転職を迫られる状況が来るかもしれないことを現実感として意識していた方は少ないのではないでしょうか。企業組織の中で与えられた職務を着実に遂行していけば、年齢や経験に応じた役割・待遇が与えられ、つまりご本人にとって好ましいパスかどうかは別問題として会社側が社員のキャリアパスを用意しますので、自発的に自分のキャリア形成の方策など、殊更考えなくてもよかった時代です。

「自分は何がしたいのかなんて、考えたことなかったなあ。」遠くを見つめながら山下さんはおっしゃいました。開発プログラマーに始まり、開発のプロマネになり、ITを活用しての業務改善を提案するシステムコンサルタントに、会社からアサインされた業務をこなす中で経験を深め仕事の幅を拡げてきました。ハードでも、遣り甲斐のあるプロジェクトを手掛け、キャリアの見直しを考えなければならないような深刻な不満もなく30年近くが過ぎました。

そんな51歳のエンジニアの方が退職勧奨を受けるのは、彼が自覚しているように、どちらの選択肢を取っても「茨の道」であり、茨のない道を求めても解はありません。茨を掻いくぐりつつ、ご自身が遣り甲斐をもって仕事に臨むための方策が求められます。

今後の対応策

ご家族に状況を説明し、話し合った上て、意志決定(彼にとっては現職に留まること)することが第一歩です。シニアの方々の中には、家族に心配をかけたくないからと、自分の結論が出るまで家族に打ち明けない方がいらっしゃいます。しかし家族、殊に奥様は人生のパートナーです。悩みを相談することで自分では気づかない、思わぬアドバイスを得られることがありますし、共に考えるプロセスを経て、ご本人が置かれた状況や気持ちも奥様に伝わり、その後の協力も得られやすくなります。

山下さんが数日中に決断するであろう、早期退職を辞退する道は、私も妥当な選択肢と思っています。しかし、残るのも茨の道です。現職に留まる意志決定をしたら、次は、現職企業で必要とされる人材であり続けるために、どのように動くべきかを考え、実行することです。そのためには、彼自身がこれまでの仕事を棚卸し、つまり、自分がどんな仕事、どんな役割で力を発揮してきたのか、どんなときに遣り甲斐を感じてきたのか、何を大切に仕事に臨んできたのか、を確認する作業が第二に求められます。

そして第三には、棚卸をベースに、アサインされた仕事の中でパフォーマンスをより高める方策を考え実行したり、これまでの豊富なエンジニア経験を発揮して彼にしかできないユニークな役割を見い出し、シフトできるよう組織に働きかけるアクションが必要です。たとえば、豊富なプロマネ経験を武器に、大規模プロジェクトやいわゆる炎上プロジェクト(開発途中で頓挫しそうになったプロジェクト)に、若手プロマネのアドバイザーとして入り、課題解決の交通整理役となり頼れるベテランとして存在価値を発揮することもできるでしょう。

考え、行動に移すのに、遅すぎるということはありません。山下さんには定年まで10年近い時間があります。エンジニア人生の集大成となるこの10年をどう生きるか、茨の道を拓くのはご本人次第です。