Career Leaves ブログ

キャリアプランを真剣に考えたいあなた、失敗しない転職活動をしたいあなたと向き合い、共に考えます。

自分のことばを獲得する

私共のキャリアコンサルティングでは、対面のキャリアカウンセリングを受けた後、それを踏まえてご本人が考え整理したことを、ドキュメントに起こす作業を必ず宿題にします。その成果物は、現職でのキャリア形成を考えている方にとっては、キャリアの棚卸や今後のアクションプランをまとめた文書になり、転職活動をなさる方にとっては、いわゆる職務経歴書になります。

キャリアカウンセリングを受けた直後は、喉につかえていたことを相談できて気持ちが晴れた、悩みを解決する糸口が見つけられそうに感じた、よい話が聞けて有意義だった、という「なんとなく」の満足感を皆さん抱かれるようです。しかし、ここで止めてしまうと、多くの気づきや受けた刺激は一週間、二週間経つうちに忘却の彼方に消えてしまいます。それではコンサルティング料をご負担いただく意味がありませんし、コンサルタントとして私にとっても残念なことです。この「なんとなく」をさらに掘り下げて理解し、自分のことばに変換して脳裏に定着させるプロセスが、ドキュメントに起こす作業なのです。

ドキュメントに起こすとは、論理的に意味ある情報、理解したことが表現できている情報にすることです。人が頭で考える作業では、相互の関連が曖昧だったり、論理が飛躍していたり、矛盾があったりしてもご本人は気づかないことがよくあります。考えていることを自分のことばで文字に起こし、自分の眼で読みチェックする過程で、それらの曖昧さや矛盾点を確認、修正でき、その方にとってより自分らしいことばに置き換えられるのです。

ご自分のキャリアについてはあくまでも自分で考えて答えを導くことですが、思考が堂々巡りになったり、狭い領域の中で発想が固まっていることに気づかなかったりすることがあるかと思います。そんなときこそ頭で考えるだけでなく、今あなたが何を壁だと感じているのか、なぜそれらが壁なのか、つまり課題の本質を文章に起こして定義してみてください。攻めるべき本丸はどこなのか、克服すべき課題の本質を見極めないと、的外れまたは部分的な解決策しか打ち出せません。考える作業と書く作業では、脳の働く場所が違うのかもしれませんね。前述のように書くことにより気づくことがありますし、書く作業を経て理解が深まり、脳に定着できます。

イメージが湧きにくいかもしれませんので、筆者の留学時代、レトリックの授業での一こまを例に説明します。担当のY教授はドイツがルーツの厳格で気難しそうな学者です。講義は禅問答のようでもあり、元々英語が苦手な私にとってとてつもなく難解でした。あるとき、今現在諸君が抱えている問題を文章にせよ、という課題を出されたときに書いた文章とY教授とのやり取りです。できるだけ短く、無駄な情報を削ぎ落とし、本質のみを3センテンスにまとめよ、という指示がありました。

第1稿:
カリキュラムをこなすためには、たくさんの課題図書を読まなければならない。すべての本を読もうとして速読すると、内容の理解が疎かになる。大切な部分だけ拾い読みしようかとも思うが、それで授業についていけるか不安がある。私はどのように課題図書を読めばよいのか。

Y教授いわく:
「君の問題は何かね? 問題はそれ自体が自然に存在するわけじゃないよ。君の問題は君自身のために存在する。いいかい、問題を解決するとは、君自身を変革することなんだ。君はこの文章に、君自身を賭けられるかね?」

修正稿:
じっくり課題図書を読み、内容を理解する時間がない。かといってこれ以上睡眠時間を削っては、健康が保てない。どのようにすれば内容を十分理解しつつ本を速く読めるのか。

自分が抱えている問題をこう定義して、内容を十分理解しつつ本を速く読むこと、つまり速読の質の向上は一朝一夕にはできないことであり、できないことに焦っても仕方がないことに気づきました。そして、当時の私にできる解決策はタイムマネージメントを厳格に実行すること、具体的には、しなければならない各作業にプライオリティを付け、それぞれの作業に充てる時間を割り振り、その範囲で集中し、できなかった部分は割り切って捨てること、それらを続ける中で、読む力が次第につくはずだと考えました。自分にとっての解決策が決まれば、あとは実行するのみです。

問題を解決するとは自分自身を変革すること。それは、ギャップを埋めるために状況に自分を合わせるというようなことではなく、課題を解決するという行為を実行する自分に、時に勇気と決意をもってそのアクションを起こせる自分にマインドを変えることと理解しました。そのことを自己発見的に分かるように導いてくださった恩師:Dr. Richard Youngに感謝しています。

ドキュメントに起こす作業のもう一つの意義が、この「自己発見的」に理解し、自分のことばにするプロセスにあります。コンサルタントに、あなたはこうしたほうがいいですよ、とアドバイスされ、確かにそうだ、と納得するだけでは、実は足りません。納得した事柄を自分のことばに意訳して、より実感をもってオリジナルな解釈で理解できます。そのプロセスを経て初めて、自分らしい、これからを切り拓く次の一手が見えてきます。たとえば、「コンサルティングFile 2」で取り上げた小林氏も、こうした作業を経て、彼らしいキャリアの方向性を探る糸口を見い出しました。それについては「体験者の声 1」もご参照ください。

私共のキャリアカウンセリングでは、自己発見的にご自身の課題を自分のことばとして獲得し、打開するアクションを起こす、そのサポートに注力していきます。