Career Leaves ブログ

キャリアプランを真剣に考えたいあなた、失敗しない転職活動をしたいあなたと向き合い、共に考えます。

40歳の節目に・封印したキャリア動機を取り戻す

自分自身のキャリアについて考える機会は、転職という選択肢に直面したときだけではありません。むしろ、日常の業務の中で、会社組織への貢献とご自身の遣り甲斐との狭間で、多くの方々がキャリア形成のありかたについて悩み、模索しています。今回はそうしたお一人の事例です。職務上の期待役割とご本人の動機の不一致、およびそれを解消するためのアプローチのしかたにフォーカスして説明します。

相談者のプロフィール

小林氏(仮名)は東京大学出身の40歳。メーカーの海外営業や事業企画部門を経て、IT関連企業に転職し、SW製品のプロダクトマーケティングや事業再編・組織改革の仕事に係わり、今は300名弱の部門管理に携わっています。若いころから、将来の幹部候補と目されていたのでしょう。常に経営陣に近い立ち位置の仕事を任され、持ち前の責任感で会社の経営課題に取り組んできました。

相談者の悩み

小林さんの悩みは転職ではなく、キャリア形成のありかたです。30代半ばまでは、自身のスキルや能力に不安を感じ、キャリア形成上の課題と考えて、足りないと思えるスキルの習得を心がけてきました。しかし、ここ数年、ご自身の本質的な課題は「自分が何をしたいのか」というビジョンの不在にあることに気づき、いろいろ思考してきたのですが整理がつかない手詰まりの状況で、Career Leavesに相談に訪れました。

課題の明確化

小林さんが役員クラスから頼りにされ、新事業の企画や事業再編のような、企業としての重要課題であり難問を常に任されてきたのは、単に彼が東大卒のエリートだからということではないようです。小林さんは持ち前の責任感があり、職務上の期待に応えようとする義務感が殊のほか強い方です。実直に仕事を進めアウトプットを出す姿勢が評価された結果ではないか、お話を伺ってそう思えました。

経営陣に近い立場でこうした仕事に携わることは、将来の幹部候補としての登竜門であり、そうした野心のある方にとっては望むところですので、困難な社内調整も将来組織を采配するためのケーススタディと意欲をもって職務に邁進することでしょう。しかし、小林さんの場合はそうではなく、難問解決のための社内調整は義務感で遂行していますが、しんどく感じられるそうです。実際、これまで彼が遣り甲斐をもって集中し、居心地良くできた仕事は、すべきこととゴールが明確で、遂行上組織の思惑に左右されることが少なく、自己完結できる性質のものでした。つまり、小林さんが担っている期待役割と、ご自身の仕事の動機が一致していないのでは、と感じました。

様々な部門を経験してきたキャリアを振り返って、小林さんは、組織の中で都合よく使われてきた、とも述懐しています。これは、自分はこうありたい、こんなことがしたいというご自身の中にある本質的な働く動機を封印して、社会人としての真面目さ、責任感の強さ故に、会社に貢献するという「義務感」を動機にして仕事をしてきたからでもあります。その結果、「自分が何をしたいのかというビジョンの不在」という課題を自覚するようになったのでしょう。

今後の対応策

一言でいえば、封印を解くことが、彼らしいキャリアを拓く第一歩です。ここ数年、小林さんは自分のキャリア形成について考えてきました。彼が取ってきたアプローチは、キャリア目標を定め、それを実現するステップを考えるというオーソドックスなものでした。これはビジネスのアプローチ、つまり達成すべき目標を決め、実現する方法論を検討し、逆算で実行プランをつくるという発想、言い換えると、論理的で美しい企画書のようなキャリアプラン作りをイメージしていたようです。そして、肝心の目標が定められず、結果としてプランに落とし込めずに止まっていました。

しかし、働く動機を封印したままで、自分らしいキャリアは築けません。会社への義務感で目標を定めて実行するだけでは、たとえ実現できたとしても、本質的に満たされることはないでしょう。まずは、論理的に割り切れる美しい答えを求めずに、直感的に、ご自身のお腹の底にある何か、仕事を通じてどんなことが実現したいのか、どんなことを大切にしながら仕事をしていきたいのか、を自らに問い明らかにすることです。

小林さんは学生時代、専攻した学問よりも、バンド活動、外国語の習得に熱中したそうです。社会や仕事のしがらみがなく、自由に発想し主体的に行動できる時期に関心をもって取り組んだことと、その動機を探ることも「封印した動機」を解き放つきっかけになります。だからといって、外国語を使う仕事、音楽関係の仕事というように短絡的なものではありません。それらの何に喜びや遣り甲斐を感じたのか、その本質を明らかにすることです。

そうした自分自身の本質的な動機と、取り組む仕事または期待されている役割とを調和できれば、言い換えると、職務上その動機を活かす糸口が見つかれば、より遣り甲斐をもって現在の仕事に臨めますし、パフォーマンスも上がります。仮に今現在の職務では活かせないとしても、ご自分の動機を活かせる領域に仕事の幅を拡げるまたはシフトする戦術を考え、組織に働きかけて実現するという主体的なアクションを取れます。小林さんの悩みの一つは、キャリアの軸、専門領域がないということです。この主体的なアクションは、会社にいいように使われることなく、自律的にキャリアを拓く戦術にもなります。

小林さんの場合、これから20年の社会人後半生のキャリアの軸を見い出すまで、もう少し時間が必要です。それが半年なのか、1年なのか、或いは3年なのか、分かりませんが、ご自身の動機と仕事との調和を図る活動を継続することで、いずれ機が熟すときが来るはずです。現職の範疇でより遣り甲斐をもって臨めるパスを見い出すかもしれませんし、大きくキャリアを振る転機が訪れるかもしれません。

後日、小林氏からコンサルティングを受けられた感想をお寄せいただきました。その内容は、「体験者の声 1: これまでと異なる次元で自分がしたいことを捉えられるようになりました」に全文掲載しています。