Career Leaves ブログ

キャリアプランを真剣に考えたいあなた、失敗しない転職活動をしたいあなたと向き合い、共に考えます。

著書「キャリアの手帖」の書評紹介

『キャリアの手帖・36人のケーススタディ』を出版し、一月余りが経ちました。早速、お読みいただいた方々から、ご感想やご意見をいくつか頂戴しました。この場を借りて、お礼申し上げます。今回は、Amazon.co.jpの「カスタマーレビュー」に掲載された書評を紹介させていただきます。

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AO入試対策:一所懸命にのめり込む

今回は、いつもとちがうコンサルティングFileです。 この秋、大学のAO入試を控えた高校生の保護者の方から、面接練習の依頼がありました。AO入試は、学科試験ではなく、面接や小論文などにより出願者の個性や適性を多面的に評価し選抜する入試です。大学入試対策は専門外ですので、私は適任ではないと一旦はご辞退しましたが、ビジネスパーソンの視点で面接の受け答えやプレゼンのしかたをブラッシュアップしてほしい、という趣旨でしたのでお受けしました。

大学の理系を志望する制服姿の男の子でした。ビデオ撮影しながら30分の模擬面接を行い、いっしょにビデオを見ながら修正点を確認しました。

彼は自動車が好きで、高校も自動車部があるところを選びました。生徒たちで自動車を組み立て、一定の距離を走行し、いかに消費した燃料が少ないかを競う、つまり燃費を競う競技があり、彼の自動車部は大会で優勝したこともあります。将来は、自動車会社で設計の仕事がしたいのだそうです。

自動車を好きになったきっかけを訊ねると、「物心ついたときからおもちゃの自動車で遊んでいました。それからずっと自動車が好きなので、何がきっかけだったか、覚えていません」と言います。愛読書はありますかと訊くと、「愛読書といえるほど読み込んでいませんが、本田宗一郎さんの本を読んで、自分もあんな風に自動車作りがしたいと思いました。」最近、尖閣諸島問題で日中関係が厳しい状況になっていますが、この問題についてどう思いますかと訊くと、「政治的なことは、私にはよくわかりません。ただ、日本車が燃やされているニュース映像を見ると悲しくなります」と。

すごいなあ。《一所懸命》とはこういうことかと感じました。 すべてが自動車の関心に繋がっているのです。ここまで徹底すれば、それは「芸」になり得る。自動車という一所(ひとところ)を掘り下げる先に、いつか突き抜けて、彼の視野がパッと拓ける日が来る。

つまり、点の知識や体験を積み重ねるにつれて、少しずつ点が線で結ばれ、面の理解や認識に深化、発展していくのです。その過程で、未知のことへの認識方法や新たなことへの挑戦のしかたなど、その人らしいアプローチのしかたを身に着け、それまで見えていたけれど見ていなかった世の中の風景や出来事の構造を、急に立ち現れるように認識できるようになる日が来る。専門性を追求するとは、そういうことなのだと思うのです。

思い起こせば、これまでお会いしてきた方々の中で、その人らしい一貫した何かを兼ね備えた方、ビジネスの世界で何事かの結果を残してきた方は、思春期から大学生くらいの間に、何かにのめり込んだ体験が大なり小なりあります。それは、小説だったり、映画だったり、ラジオの深夜放送だったり、ソフトのプログラミングだったり、スポーツだったり・・・。この話なら、一晩中でも語れる。そんなテーマを持つ人です。

そののめり込み体験が、ある種の成功体験となって、何か困難なテーマに直面しても、諦めずに探究し、試み、突破する。その原動力になっているのではないでしょうか。

自動車好きのその高校生は、来春、慶応義塾に入学します。

『キャリアの手帖』を出版しました

キャリアの手帖・36人のケーススタディ ―あなたからチャレンジを奪ったら何が残りますか―

・A5版ペーパーバック 150ページ ・価格:1600円(消費税込:1680円)

現代的キャリア課題に立ち向かう20代から50代まで、36人の社会人の姿をケース・スタディとして描いた本です。キャリア形成や転職はハウツウでは語れません。これまで私は、大学生から60代まで、育った環境、価値観、行動性向が異なり、抱えるキャリア課題もそれぞれ異なる世代と向き合ってきました。その体験を基に、適職を求めての模索、現職でのキャリア形成の迷い、結婚や子育てと仕事の両立、転職活動やリストラの苦悩など、個別のキャリア課題をライフキャリアの視座から俯瞰して、自律的キャリア形成のありかたを浮き彫りにする試みです。

内容の詳細・購入方法

詳しくは、キャリアリーブス叢書のページをご覧ください。 本の目次、本文のサンプルなどを掲載しています。なお本書は、アマゾンPOD(Print On Demand)で出版しますので、一般の書店に流通しません。キャリアリーブスのホームページよりアマゾンにアクセスし、ご購入いただけると幸いです。ご一読いただけると嬉しいです。

キャリアの手帖・編集後記

実はしばらく前から書き溜めた原稿を出版したいと考えていました。最近、アマゾンがPOD(Print On Demand:在庫を持たずに、注文を受けたら都度印刷するしくみ)サービスを開始しました。出版社が在庫を持たない分、著者負担は最小限ですみますので、PODなら数冊のシリーズ本が出せると思い、出版に踏み切ることにしました。

本書を皮切りに「キャリアリーブス叢書」として、失敗しない転職活動のしかた、自律的キャリア形成のありかた、大学生の就職活動のしかたなどのテーマで、順次、出版を予定しています。

ページ数は150ですが、通常の単行本では200ページを超える文字量です。ページを減らし単価を下げるため、目で追うのに負担にならない範囲で文字を詰めて1ページの文字量を増やしました。それでも発売単価は1600円になり、ご購入いただける皆様には申し訳ないと思っています。ほんとうは1000円以内に収めたかったのですが、どうぞご容赦ください。

最後になりましたが、ケーススタディとして掲載をご了承くださった方々に、心よりお礼申し上げます。

私なりに、精一杯書きました。 皆さん、ご一読いただけると嬉しいです。

新入社員の壁:今の状態から抜け出したい

学校という教えを授かる社会から、労働により周囲に貢献してその対価として賃金をいただく社会へ、庇護される場から自分で切り拓く場へ、その移行は新入社員にとって未知の体験です。誰もが多かれ少なかれ、さまざまな形で受ける試練ですが、傍で見ているよりもずっと深刻で、苦しいものです。その壁にどう立ち向かい、どう克服するか。それは社会人としてどんな人生を送るようになるか、その方向性を決める試金石でもあります。

相談者のプロフィール

阿部さんは女子大の英文科をこの春卒業し、社員数30名ほどの専門商社に入社しました。営業部に配属となり、営業事務やホームページの商品カタログ作りの仕事に携わっています。学生時代、就職活動がうまくいかず、今年1月になってやっと内定を得て、「とりあえず就職しなければと入った会社」でした。自分にとって第一希望の就職先ではないとしても、仕事は仕事と割り切れば乗り越えられると思い勤務を始めたのですが、入社4か月にして、就職活動をやり直したいと、人材紹介会社に登録したところです。

「学生と全く異なる社会人として生きていくためには多少の人間関係には眼をつむり、理不尽なことにも耐えていかなければならないとは考えておりました。しかし、思ったよりも上司の存在が大きく、自身のやる気をそぐ相手になっております。」相談依頼の文面は抑制が利いており、甘い幻想を抱いて就職した方ではないことが窺われます。ではそんな阿部さんの悩みとはどんなことなのでしょう。

相談者の悩み

上司の営業部長は30代後半。仕事はできるのですが、感情を抑えきれないところがあり、ちょっとしたミスでも部下を怒鳴る人です。時には、急ぎで待っているメールが届かない、というような部下の責任ではないことに怒鳴って周囲に当たり散らすこともあり、営業部全体が委縮して重たい雰囲気に包まれています。「学生時代、マクドナルドなどいくつか接客のアルバイトを経験しました。店長やアルバイト仲間とは仲よく、楽しく仕事ができました。怒鳴られたことなんてないんです。」罵声の洗礼を受け、阿部さんは仕事に集中できず、慣れない仕事でミスも目立ち、また怒鳴られるという悪循環に陥っているのです。ホームページの商品カタログ作りは、イラストを描いたりデザインしたりするのが得意な彼女にとって、能力を発揮できそうな分野のはずですが、そうした仕事にも興味が持てないと言います。

大学時代の友人の話を聞くと、皆、少なくとも彼女よりは恵まれた環境で勤務しています。もっとのびのびと仕事がしたい、結婚しても働き続けたいのでプライベートとのOn/Offの切り替えができる精神状態で働きたいという思いが募りました。イラストレーションやデザインに係りたい気持ちはありますが、専門に学んできたわけではありません。仮にそんな仕事に携われても、仕事はもっとハードになるでしょうし、人間関係に悩むこともあるはず。ユートピアのような会社はないと頭では分かっているのですが、「仕事とプライベートを充実させられる、自分が楽しめる仕事につきたい」と、転職活動を始めたのです。

課題の明確化

お会いした阿部さんは、相談依頼を受けた時の文面と同様、感情的な会話にならないよう抑制が利いており、ことばを選びながら語っておられました。職場に課題があるからといって短期で辞めては自分のためにはならないことも、重々承知しています。そもそも、希望する会社でないとしても仕事は仕事、と覚悟を決めて入った企業です。現職を辞めて、この仕事がしたいという明確な意思があって転職を考えているわけでもありません。

上司の、時に理不尽なプレッシャーにより委縮し、それが元で仕事が手につかなくなり、仕事そのものにも興味が持てない《状態》になっているだけです。「仕事はずっと続けたいです。早く一人前に仕事をこなせるようになって、プライベートも充実させたい。でも、できない自分がいます」と言います。彼女の本質的な課題は、「今の《状態》から抜け出したい」、つまり転職というよりも「仕事とプライベートを充実させられる、自分が楽しめる」ようにしたい、という点にあると感じました。

今後の対応策

短期での転職の場合、退職理由を納得できなければ企業側は採用しません。なぜ転職するのか、問題を克服するためにどんな努力をしたのか、つまり逃げていないかを厳しく問われます。それらに対する答えを持ち合わせていないことを、彼女も十分認識しています。それに、今の《状態》から抜け出す方策は転職に限らないのです。

今の《状態》から抜け出すステップの第一は、仕事や環境を自ら組み換えることです。まだまだ不慣れで入力ミスなどケアレスミスが目立つ阿部さんですので、まずは一つずつ作業を確認し、仕事のミスをなくす工夫をすること。確認作業は、やろうとすれば今日からできる小さな努力の積み重ねです。彼女には、日々反省ノートを付けることを提案しました。うまくいかなかったことについて、なにが原因かを考え、明日はこうしてみよう、とアクション項目をメモして意識に定着させ、実行することです。

そうして地道にアクションを重ねれば、3か月後、半年後、知らず知らずのうちに実力が着いてきます。仕事が一人前にこなせるようになれば、周囲の風景が変わります。見えていなかったものが見えるようになります。上司が彼女を見る目も変わり、関係も少しずつ改善されるでしょう。

自分が落ち着いて、仕事がこなせるようになったら、第二のステップです。自分は何がしたいのか、転職でそれが実現できそうか、改めて考えることです。今年の12月まで半年、第一ステップを続け、この会社でこれだけのことができた、という自負を持って、第二ステップを考えてみてはいかがですか、そうすれは転職活動の際、面接できちんと転職理由を説明できますよ、と提案しました。

「それくらいの期間なら頑張れそうです。早速、帰りにノートを買います。」 阿部さんは柔らかな笑顔で答えました。

仕事を一人前にこなして、上司ともよい関係になること。それが彼女の当面のゴールですが、すぐにそれを実現するには、と考えると、目の前の壁はとてつもなく高いものに感じられます。超えるのは無理、転職して場を変えよう、という短絡思考に陥りがちです。ゴールを半年、一年後に置き、階段を一歩ずつ登るように小さな課題を1つずつ解決していけばよい。そう捉えれば、壁は低くなります。

人の心を動かすことばと姿勢がある

パートタイムで就活アドバイザーをしている大学での一こまです。 「就活、しなきゃだめですか? イヤだなあ。だって、アタシ、バイトでもミスばかり。仕事を覚えられないんですよ。紙に書いても、すぐ忘れちゃうんです。母には、お前を雇ってくれる企業はない、って言われてます。そんなに働く気ないし、就職はできないと思ってます。」3月にキャリアセンターに初めてやって来たとき、その女子学生は自分のダメさ加減をそう語りました。受けないことには内定は取れないのだから、まずは受けようよと話しましたが、あまり気乗りしない様子で、同じゼミの友達に付き合って時折キャリアセンターに来ては、「どうせ私は…」とブツブツ愚痴を言って帰ります。この学生は来年3月のまで就活が続くことになる、と私は心の中で頭を抱えていました。

熱心にES(エントリーシート)を書くゼミの友人の影響を受けてか、動き始めたのは5月です。ESに書く内容を私に相談するようになったのです。応募しては書類選考で落ち、たまに面接に進んでも、ボロボロに打ちのめされる日々が続きました。「どうせ、これも落ちるんだ」、がESを書く彼女の口癖になりました。兄は早稲田を出て大企業に入ったのだそうです。子どもの頃から優秀な兄と比較されて、親からは、お前は何をやってもダメだと言われ続けてきました。そんな幼児期からの体験もあってか、自己肯定感が薄い学生で、自分に自信がもてず、何事もやる前から諦めムードが漂います。

ところが6月、私が促さなくても、落ちても、落ちても、めげずに応募するようになっている彼女に気づきました。ゼミの友人は、二次、三次と面接が進むようになり、焦りを感じたのかもしれません。そして6月後半、「先生、またダメだ。集団面接で、周りの学生はスラスラ答えてるんです。私はできない。何か質問は、と訊かれて、『私、バカなんです。受けても、受けても、通りません。こんな私を雇ってくれるところがあるのでしょうか』って、言っちゃいました。周囲の学生は、クスッ、て笑ってました。やらかしました。」

彼女は集団面接の状況を説明してくれました。 悪くないんじゃない。その面接、通ったと思うよ、と私は言いました。

周囲の学生の話は、就活本にある模範解答のようで心は動かされません。「私はバカだ」と認めるところから始めた彼女の態度の方が、飾り気がなく人間味あるものに感じられたのです。どこの企業も優秀な人材が欲しいのは当たり前ですが、それ以上に大切な評価基準は、この人といっしょに働きたい、と思えるかどうかです。そして馬鹿し合いの仮面をかぶった就活エリートよりも、率直に自分をさらけ出した彼女の方が、面接官の立場で考えると魅力的に感じられるのです。

1週間後、彼女は一次面接通過の知らせを受けました。この面接を皮切りに、以降3社の面接を受け、すべてパスします。就活力の「開眼」です。自分を率直にさらけ出し、「のろまな亀だけど、仕事は一所懸命にやります」と、当たって砕けろ方式で挑む。彼女が知らず知らずのうちに編み出した独自の戦術です。

7月下旬、前述の企業の最終面接を終えた彼女から、「これからキャリアセンターに行きます」と電話が入りました。やって来た彼女は幾分強張った、今にも泣きそうな表情です。どうでした? 文字通り固唾をのんで、ことばを待ちました。彼女は無言のまま、黒い就活用バックから1枚の書類を取り出して、黙ったまま私に差し出しました。その書類には、何と、「内定通知」のタイトルがあるではありませんか。

「直接、見せたかった」、と彼女は泣き崩れました。「あなたの正直で真摯な人柄を評価しているし、ウチに合っていると思う。ぜひ来てほしい」と、面接終了後、社長さんはその場で内定通知に判を押して渡してくれたのだそうです。

前週に受けた他社の集団面接では、当社への志望度は何%ですか、と問われました。一人目の学生は「1億%です」と答え、二人目は「165%です」と答え、面接官は苦笑しました。三人目の彼女は、みんな100%以上、私も120%くらいは言わないといけないかしら、と引け目を感じつつも、「はい、90%です。説明会やこれまでの面接で御社の魅力を十分感じています。それが90の意味で、残りの10%は、現場が自分に合っているかどうか、まだ判断できないからです」、ときっぱり答えました。いつの間にか彼女は、そんな立派な発言ができる就活生になっていたのです。「やっと、まともな答えが聞けたよ」、と面接官には言われたそうです。

人の心を動かすことば、姿勢があります。 実直で飾らないことば、真摯な態度。そして、自分の愚かさ、至らなさを認めて受け入れる勇気。それができる人間のことばは、人の心に響きます。その大切さを、二十歳そこそこの女の子に教えていただきました。ここで就活アドバイザーの仕事をさせていただいて、幸せだなあと感じました。

ここに行くのね? 「はい、行きます。」受けていた4社の中で、私もここが一番合っていると思う。 2012年7月末、その女子学生はリクルートスーツを脱ぎました。

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