Career Leaves ブログ

キャリアプランを真剣に考えたいあなた、失敗しない転職活動をしたいあなたと向き合い、共に考えます。

偶然を必然に換える

キャリア形成の研究の一つに、社会学習理論と呼ばれるものがあります。キャリア発達には:

・ 遺伝的要因(人種、性、身体条件、性格、知能など)

・ 環境的要因(経済状況、社会状況、地域状況など)

・ 学習経験(これまでの経験から学んだこと、得たスキルなど)

の3つがあります。それらのうち、最後の社会的学習のプロセスに着目した理論です。

成功体験がキャリアを拓く

スタンフォード大のジョン・D・クランボルツ教授は、学習プロセスは周囲からの「プラスの強化(フィードバック)」と「マイナスの強化」により成り立つと言います。プラスの強化を受けると引き続きその行動を進め、マイナスの強化を受けるとその行動を止めたり、諦めたりするのです。プラスの強化は成功体験、マイナスの強化は失敗体験と置き換えるとイメージが湧きやすいですね。

たとえば、初めは本人にとってはあまり興味のない、上司に命じられてしただけの仕事でも、よい成果を挙げて褒められたり、自分なりの達成感を感じる(プラスの強化)ことで、その仕事に興味を持ち、さらに努力を継続するのです。その行動が、さらに大きな成果に繋がったり、自分はこの分野の専門家として頑張ろうというキャリア選択の要素になったりします。

筆者自身の例で言うと、私は学生時代、新聞記者を目指していましたが、夢かなわずNTTに就職しました。3年後、営業からマニュアル制作手法の研究プロジェクトに転勤になるのですが、それは私の意志ではもちろんありませんし、「取説って何?」状態から始めました。しかし、技術的な情報を「取扱説明書」というユーザー向けの情報に翻訳する作業は思いのほか奥深く、興味深く、いつしかこの道のスペシャリストになろうと考えるようになりました。以来、大学院留学を含めマニュアル、さらにはコミュニケーションのありかたを考えることに没頭し、現在に至ります。あの、単に命ぜられたから取り組んだに過ぎない行動から、新たなことを知る喜びや研究成果というプラスの強化を受けて、キャリアの意志決定とその後の社会人人生に大きな影響を及ぼしたことになります。

計画された偶発性理論

クランボルツはさらに1999年、Planned Happenstance Theory(計画された偶発性理論)を提唱しました。その要旨は、「キャリアは偶然に起きる予期せぬ出来事で8割決まる。偶然の出来事が起きる前には、その偶然を引き起こすさまざまな自分自身の行動が存在しているはず。つまり自分の行動がある意味必然的にその偶然を誘発している。むしろそれら偶然の出来事を積極的に活用して、キャリア形成に活かすべき」という理論です。

確かに、職業上のキャリア形成も、広く人生も、計画した通りに進むものではありません。医学部の学生など、高度に専門的な職業訓練を受けた一部の若者をはぶき、こんな職業に就いて、10年後、20年後にはこうなって・・・と思い描いたことを実現できる人はほとんどいないでしょう。大多数の学生は、偶然の巡り合わせである企業に採用され、ある部署に配属され、ある仕事に就きます。その偶然の職業体験から、人はそれぞれに何かを学び、自分らしいキャリアを拓いていくのです。それは就職後も同じです。

前述の筆者の話で、大勢の候補者の中からなぜ自分がマニュアルの部署に選ばれたのか、本当のところは分かりません。当人のあずかり知らぬ、組織間のさまざまな思惑やポリティクスの結果だったのでしょう。しかし、新聞とは係わりのない営業の仕事に携わりつつも、常に簡潔で分かりやすい文章を心がけ、他の社員なら数回書き直しさせられる報告書類を、修正なしで局長まで承認印をもらうことができていた事実も、人選要素のほんの一部には入っていたように思います。

そうなることを意図していたわけではありませんが、私自身の行動がマニュアル部署への転勤という必然的な偶然を生み、文章を書くのが好きな自分の嗜好にも合って、マニュアルの世界にのめり込んでいったように、振り返って思うのです。「振り返って思う」と書きました。それは当時の私にそれほどのキャリア意識がなかったからであり、こうすればこうなるという計画もなかったからです。たとえ何かを意図して行動しても、その意図通りになるものではないでしょう。意図しているかどうかはともかく、自分が何かを目指して行動したことに起因して、予期せぬ偶然の出来事が引き起こされます。それを迷惑な出来事と捉えてやり過ごすか、自分のキャリアを拓くチャンスと捉えて一歩前に進むかは本人次第です。

必然的な偶然を導く

さらにクランボルツは、予期せぬ出来事を必然的な偶然に換えるには、5つの思考パターンがあると述べています。

・ Curiosity:好奇心を持ち、広げる

・ Persistence:すぐには諦めず、やり尽くしてみる

・ Flexibility:状況の変化に伴い、一度意思決定したことでもそれに応じて変化させればよいと考えてみる

・ Optimism:大半の悲観的なコメントよりも、たった一人の前向きなコメントを心に置いてみる

・ Risk-taking:失敗はするものだと考え、今ある何かを失う可能性よりも、新しく得られる何かにかけてみる

かつてキャリア目標は、役員や部長を目指す、というように割と単純明快で、いわば富士山に登山するように、頂上という唯一、固定のゴールを目指し一合目、二合目と計画を立て進んでいけました。今やビジネスのありようは大きく変化し、今も変化し続けています。企業の事業計画も、個々人に求められるスキルも、せいぜい2〜3年先は見えても、その先のことは分かりません。インターネット業界に至っては、半年先も闇かもしれませんね。その意味で、現代のキャリア形成は筏(いかだ)くだり。川は曲がりくねり、少し先までしか見通しが利かず、緩やかな流れと激流が交互に訪れ、あちこちに予期せぬ難所があり油断していると岩場に乗り上げかねません。

自分にこだわりつつ、好奇心と柔軟性をもって偶然の出来事に対処し、ここぞというチャンスには楽観性をもってリスクを取る。こうした時代だからこそ、こうありたいと考え、行動し、その思考と行動により引き起こされたかもしれない予期せぬ出来事を自分のチャンスに換える意識と行動力が求められているのではないでしょうか。

メンタル疾患:快復と復帰を模索する

職場でのストレスからうつ病自律神経失調症などを発病し、休職し、最終的に退職なさる方が後を絶ちません。『労働者健康状況調査』(厚労省H19年)によると、職場で強いストレスを感じる労働者は、全体で58.0%(正社員61.8%、契約社員56.2%、パート40.3%)にのぼります。ストレスの主要因は、職場の人間関係が38.4%、仕事の質が34.8%、仕事の量が30.6%です。メンタルヘルスが原因で休職・退職した労働者がいる事業所は、1000人以上の企業で92%、300〜999人規模で67%、100〜299人規模で38%だそうです。少なくとも300人に1名くらいの割合で、メンタル疾患で休職なさる方がいるのかもしれません。

程度の軽重はあれ、自律神経失調症うつ病で苦しんでおられる同僚の方が、読者の皆さんの周囲にもいらっしゃるのではないでしょうか。第一線で活躍している、言わばその企業や組織の大黒柱的存在の方で、激務をきっかけに精神的な負担に起因する病に突然陥る方が増えています。休職または退職により一旦職場を離れて、ゆっくり休養することになりますが、快復後の職場復帰や再就職が大きな壁になっています。

メンタル疾患は、私には専門外のことであり、キャリアコンサルタントとしてはどうすることもできないのですが、今や、メンタルヘルスを抜きにして職業キャリアを語れないのが実情でもあります。実際、今年(2011年)もうつ病による休職・療養を経て、社会復帰を目指す方の相談を3件受けました。今回は人物を特定せず、そうした人々を取り上げます。

病気になる経緯

インターネット関連のシステム開発に携わっているある男性は、29歳の若さで開発部門の責任者になり、新しいサービスを開発する仕事に取り組みました。前例のないところを手探りで切り拓きつつの仕事です。部下6名のうち2名が激務のため体調を崩し相次いで休職しますが人員の補充はなく、彼がそれら2名の仕事も引き受けて踏ん張ります。そして数ヵ月後、彼自身が吐き気や目まいに襲われ、自律神経失調症と診断され休職を余儀なくされました。幸い1年後、体調はほぼ回復し復職を申し出ましたが、会社側に断られてしまいます。リーマンショック後の経営状況が思わしくなく受け入れる余裕がないこと、同じように病気休職から復帰して短期で退職した前例があることがその理由だそうです。

30代前半の別のエンジニアの方は、アルバイトで学費を稼ぎつつ苦学して国立大学を卒業し、システム開発を手掛ける大企業に入社しました。プログラムのバグ(システムの不具合)解析能力に優れ、他のエンジニアが投げ出してしまったバグも引き受けて解決してしまいます。職場内でも自然と頼りにされ、困難なバグ処理が彼に集中しました。東北人気質の粘り強さも手伝ってか責任感が強く、毎日午前3時、4時までバグ処理に没頭し、土日も出勤する日々が半年続きました。彼自身は、疲労感はあっても仕事への気力は十分で、自分がやらねば、と頑張りました。そんなある朝、目が覚め、さあ会社に行こう、といつものように思ったのですが体が動かず、しばらくベットから起き上がることができなかったそうです。それが始まりで、駅のホームで電車のドアが開いても足が一歩前に出ない、気がつくと会社とは反対方向の電車に乗ってしまう…、と出勤する意志はあるにも拘らず体がいうことを聞かない状態になりうつ病と診断されました。

病気に陥る人のパターン

各企業とも人員が削減され、一人ひとりの労働が過重になっている現状では、彼らのように有能で責任感のある人材に負担が集中します。激務の末に病気になるとは、ご本人の気力とは別の次元で、人間としての体がある限界点を越え、生命維持のための非常ボタンが強制作動したということなのでしょう。しかし、ひたむきに働いた結果が、病気や退職では悲しすぎます。

病気になる方に共通する性向の第一は、真面目で責任感が強いこと。つまり「私がやらねばならない」と、限界まで頑張ってしまう人です。第二に、優等生で完璧主義なこと。「この仕事はこうあらねばならない」、「なんとしても期待される成果を挙げなければならない」と手が抜けない人です。この「ねばならない」思考といいますか、非合理的信念が、限界まで頑張る行動の原動力になっているように思います。

病気からの快復と、復帰の課題

休職・療養し、専門医による化学療法を受けることで、ひとまず病状を回復させることはできます。しかし、前述の非合理的信念=「ねばならない」思考を改めない限り、復帰しても、また頑張りすぎて再発する恐れがあります。投薬だけでは、本当の意味での快復にはならないのです。この「ねばならない」から、「そうできるのがベストだけど、現状では次善の対応としてここまでしよう」という思考が無理なくできるように、自分の思考様式を変革することも必要なのです。この点については、「コンサルタントの視座14 自分の課題をセルフカウンセリングする」で、論理療法を紹介していますので、そちらをご参照ください。

さらに、快復しても受け入れ側の課題があります。『心の健康問題により休職した労働者の職場復帰支援の手引き』(厚労省委託 中央労働災害防止協会、2010)には、主治医から職場復帰OKの診断書が出された後、受け入れ事業所での対応方法や、段階的な復帰のステップが示されています。しかし、人員配置に余裕のない職場では、本人に負担がかからないような段階的な復帰は難しく、昨今の経済状況からも受け入れの余裕がないのが現状です。結局は、休職満了に伴い退職となるケースが多いようです。

SEのようなハードな仕事では、そもそもエンジニアリングの現場に戻れるのか、という疑問もあります。仮にキャリアチェンジを図ろうとしても、転職市場は経験者採用、即戦力が原則です。メンタル疾患の病歴のある方を、承知の上で雇用してくれる企業も少ないでしょう。キャリアコンサルタントとして答えは見つかりませんが、これからも向き合っていきます。

自分の課題をセルフカウンセリングする

キャリアコンサルティングに用いられるカウンセリング技法や理論はたくさんあります。今回は、そんなカウンセリング技法の中で、論理療法と呼ばれるものを紹介します。用語だけ聞くと、なにやら専門的で特殊なテクニックのように感じると思いますが、日常、皆さんがカウンセリング技法とは知らずに実行しているものの1つです。

論理療法では、エリスという研究者により提唱されたABC理論(ABCDE理論とも呼ばれます)が有名です。人は何かの出来事(Activating event)の結果から、不快な感情(Consequence)をいだくことがあります。それは、出来事から不快な感情にダイレクトに結びつくのではなく、何らかの価値判断をした結果としての信念(Belief)に基づき不快な感情に至る、というものです。ここまでがABC理論です。

たとえば、長年携わっていた商品マーケティングの部署から営業に異動を命ぜられたという出来事(A)から、その人が、左遷された、それならいっそ転職する方がよいかもしれない、という不快な感情(C)に至ったとします。その背景には、営業はマーケティングより下だ、自分は会社から評価されていないから異動を命じられた、営業の仕事など自分のキャリアには無意味だ、というような価値判断に基づく信念(C)があると考えられます。

この正しいとは言えない、または正しいかどうか不確かな、非論理的・非合理的信念に反論(Dispute)し、論理的に適切な信念に変えられれば、より前向きな気持ちで課題に対処できるという効果(Effect)が生まれます。ここまでくるとABCDE理論になります。

前述の例で言うと、部署異動で絶望している人に、本当に左遷なの、評価されていない結果なの?営業はマーケティングより下だと何を根拠に言えるの? 営業の現場を経験する方がより現実的なマーケティングができるようになるのでは? と反論(D)したらどうでしょう。その結果、確かに左遷とは言い切れない、仮にそうだとしても営業で結果を残せば評価も変わるはず、将来のことを考えたらここで営業の現場を経験するのはいいことかも、と不快な感情が和らげば、本人にとって前向きにキャリアを拓けるという効果(E)に繋がるのです。

キャリアコンサルティングでは、相談者がこのような非論理的・非合理的信念を抱いている場合、その修正にフォーカスして反駁を試みます。皆さんも、同僚や友人に何かを相談されたとき知らず知らずのうちに実行しているやりかたと思いますが、ABCの構造を意識できれば、より効果的にできますね。

この論理療法の考えかたは、自分で、自分のうまくいかなかった行動や憤慨するような感情の高ぶりを自己分析し、改善するのにも役立ちます。つまりセルフカウンセリングです。筆者自身の学生時代の苦い体験から説明します。

出来事(A):

大学時代、クラブを退部しようとしていた同級生の相談に乗ったことがありました。彼は誰かにいじめられたわけでもなく、内気な性格のせいか、疎外感を感じ、居ずらくなって自ら退部しようとしていました。その学生を思いとどまらせようと、会って話したり、手紙を送ったりして、説得を試みたのですが、結局、「僕のようなダメな人間には係わらないようがいいよ」と、退部してしまいました。

不快な感情・自滅的な行動(C)

こんなに親身になって悩みを聴き、アドバイスしているのになぜ受け入れないのか。なぜこの人は努力しないで自分自身を否定するようなことを言い、逃げてしまうのか。ここまで言ってもわからないなら勝手にしろ、と最後はこちらから絶交する、と言い捨てて私は去りました。

その背景にある非論理的・非合理的信念(B)

ものごとを論理的に説明すれば、人は理解し行動してくれるはず。そうならないのは相手がおかしい。私は相手の立場で、真心からいっしょに悩み、解決策を提示した。にも拘らず、私の期待する通りにならないのは許せないという独善的な信念があったように思います。

非論理的・非合理的信念への反論(D)

そもそも人間には論理的な思考・判断だけでなく、感情がある。その感情に響かなければ相手は動かなのではないか。論理的に説明したというけど、その学生が頭で分かっても動けないという、どうにもならない気持ちをきちんと受けとめたのか? 確か、「僕はキミみたいに強くないから・・・」と彼が呟いたことがあった。気持ちの部分を無視して、理屈だけで語っていたのではないか? 自分の、こうあるべき、という考えや価値を押しつけていただけなのでは?

論理的・合理的信念への修正

人間の心には論理的な思考・価値判断と感情がある。相手にこちらの言いたいことを伝えるためには、理屈で分かる部分と感情で分かる部分の両方を意識しなければならない。

効果(E)を産むために

自分はどうも、理屈の部分、つまり伝える内容の論理整合性にばかりとらわれ過ぎて、相手の気持ちを推し量る姿勢に欠けている。これからは相手の考えが適切かどうか、と共に、なぜ相手がその行動を取るのかを気持ちの問題として捉えることを意識しよう。

このように、自分で自分の課題の本質をセルフカウンセリングすることもできます。ABCを意識して、トライしてみてください。-----

偏差値エリートの岐路:働き甲斐の指標を求めて

「私の強みは顧客のニーズを把握して、状況を論理的に分析した上での提案力、内外と調整し信頼を構築してプロジェクトを推進するマネージメント力です。常に作業効率を考えてプロセスを改善し、結果を出せます。一方、ゼロから何かを生み出す企画力は弱いというか、経験がありません。既定のレールがあって、それをよりよく実行するほうが得意です。」挨拶もそこそこに、武田さんは準備した自己分析の結果を語り始めました。一つひとつ自分の考えを確認しながら、それでいてスピードのある喋りで、頭の回転の早さを窺わせます。

相談者のプロフィール

武田さんは、私立の名門中学・高校を経てストレートで一橋大学に入学しました。サークル活動のなかで、ホームページ作りを担当したことがきっかけで、インターネット業界に関心をもち、企業のホームページ制作やWebマーケティングを手掛ける企業に就職します。以来6年、Webディレクターとしてコンサルティング、食品、映画、旅行などさまざまな業界の大手企業のホームページ制作やEコマースサイトの運用に携わってきました。それぞれのプロジェクトで着実に成果を出し、Webディレクターとして順調にキャリアを積んできたかに見える武田さんですが、思い立って半年ほど前に退職しました。以来、精力的に転職活動を進め、延べ約90社に応募しました。いくつか内定も得たのですが、踏み切れずに辞退し、転職活動を続けています。

相談者の悩み

「自分が本気でなかったからだと思います。あまりモチベーションがないのに応募したり、きちんとその企業を調べずに面接に臨んだり…。職業に関して、こうあるべき、というのが自分にないのです」、とこれまでを振り返って、転職活動がうまくいかない原因を彼は分析します。

転職活動の前半3ヶ月、彼はWebディレクターからキャリアチェンジを試みました。企業内で環境関連を担当するポジションです。企業として環境問題に取り組むための企画書を携え、30社ほどを廻りましたが、企業側に採用のニーズがなく、大半は選考に上らなかったそうです。では彼の中に環境問題に関して強い関心があるのかというとそうでもなく、企業がまだまだ未着手の分野であり、その分未経験者の自分でも入り込む余地があるという判断からのアプローチでした。

蓄えも残り少なくなりました。転職活動後半の3ヶ月、まずは稼がなければ、とWebディレクターの経験を活かせる仕事にターゲットを変更し、応募を続けているところです。

課題の明確化

そもそも、なぜ前職を辞めたのですか、と問うと、「努力の先に、ステータスを求めていました。そのステータスとは、学校であれば順位であり、仕事では年収などの明確な数字です。収入にこだわっているわけではなくて、努力の結果を表す指標がほしいのです。しかし、仕事では成果と年収がイコールになるわけではありません。さらに先輩たちを見て、ゴールが見えてしまう。モチベーションが湧かなくなったのです」と言います。

中学、高校と、進学校に通う武田さんの努力の原動力は危機感と向上心でした。「成績が30位以内なら安心、でも100位になったら危ない、という危機感」から勉強に励みました。その向上心と持ち前の明晰な頭脳の結果、難関国立大学に現役合格しました。しかし、彼にとっては「大学に入ることがゴール」でした。大学では学問には興味が湧かず、「人前で目立つことをする、その陰には地道な努力が必要です。頑張って練習すればした分、うまくなるのが実感できる」と、あるサークル活動に熱中します。元来、目立ちたがり屋な彼の自己表現のエネルギーと、ストイックなまでに自分を追い込み努力する気質がマッチしたようです。

進学では王道を行き、日本の頂点の一つである名門大学に入学を果たしました。サークル活動では自己表現の達成感を得ました。その延長線上で、彼の危機感と向上心を発揮する場を求めて仕事に取り組みました。そして「職業に関して、こうあるべき、というのが自分にない」ことに気づいた彼がいます。単純明快な指標があって、その目標に向かい努力できたのは「余計なことを考えなくて済むからかな」と、彼が漏らしました。

今後の対応策

これまでの成功体験から、働く動機=努力の成果、という構図を求めすぎてきたことが、そもそも適切ではなかったのではないでしょうか。勉強での努力は、試験の成績という形で明確に表われます。その結果、偏差値の高い学校に進学すれば知的レベルの高い仲間と切磋琢磨しつつ、より高度な教育が受けられる可能性が高まりますので、成績という指標にこだわることが合理的です。そしてそれは、個人プレーの努力です。一方、仕事では努力の結果は売上や顧客満足などに表われ、最終的には社員個人の評価、そして地位や報酬に反映されます。ただし、あくまでも企業全体の収益や社員間のバランスを考慮して決められるものですで、結果に対して正比例にはなりません。個人の努力だけでなく、メンバー全員の努力の結果であり、その結果はマーケットの状況に左右されたりもしますので、その意味でも正比例ではありません。

学生時代のサークル活動も、転職活動で環境関連の仕事に焦点をあてたのも、「ニッチで、普通とちがう、目立つこと」に関心の軸があるからと彼は分析しています。少し頭でっかちに自己分析し過ぎているのかもしれません。もっと単純で、もっとナマな、こんな仕事をしてみたい、この分野に興味があるという彼自身の本質的な欲求を確認することが必要と思いました。武田さんにとってこれまでは、考える必要のなかったことです。それが見つかれば、努力の指標は成績などの数字ではなく、他者との比較による相対的な評価でもない、何か絶対的な、彼独自のゆるぎない指標として立ち現われるはずです。

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キャリアの転機に立ち向かう

キャリアとは仕事だけでなく私生活を含め、生きかたそのものであることを、前回のコラムで説明しました。人はそれぞれ、自分の「幸せ」を目指して生きています。長い人生の過程では、仕事や私生活の変化、状況の変化に伴い、私たちはさまざまな選択の場に立たされます。

キャリア研究者のジェラッドは、かつてのキャリア開発はいわば「山登り」のようなもので、目的地が明確であり、その山は動かない。しかし現代社会は変化が激しく、「激流を筏(いかだ)で下る」ようなもの。状況が常に変化し将来が不確実である現実を受け入れ、過去の経験やスキルにすがるだけではなく、これからの自分のキャリアを組み替え、創造する柔軟な姿勢が大切と述べています。

実際、IT技術の発達とグローバル化に伴い、企業もビジネスもかつてないほどの早さと激しさで変化しています。自社を支えていた花形事業がすたれ、新たな分野が脚光を浴びるようになることはよくあります。かつての花形部門にいた方は、その部署にいることが約束された出世コースでした。状況が変われば、今度はそうではなくなります。エンジニアは腕が命です。しかし、努力して培ってきたプログラミング言語や手法はやがて陳腐化し、日々、新たな技術を身につけなければ第一線の技術者ではいられません。インターネット業界に至っては、1ヶ月前にセオリーだったやりかたがすでに過去のものになることがしばしばです。

予想外の変化が現実に起きたり、期待した変化が起きなかったりします。その結果として生じる仕事や生活の変化に、私たちはどのように対処すればよいのでしょう。

キャリア研究者のシュロスバーグは、人生にはさまざまな転機が断続的に訪れ、それを乗り越える努力や工夫によってキャリアが形成される、と言います。つまり、それらキャリアの転機をどのように捉え、どのように乗り切るか、考え得る選択肢の中から何を選び、どう立ち向かうか。そのプロセスで自分らしいキャリアが形成されるのです。シュロスバーグは、キャリアの転機に直面した際、以下4つの分析が必要と述べています。

①転換の影響度

これまでの役割、人間関係、日常生活をどの程度変えなければならないか。

②転換のタイミングはどうか

このキャリア転換は自分の人生の中で時期的によいか、わるいか。十分な準備期間はあるか。

③自己コントロールできるか

外的状況に依存したり人頼みではなく、転換をどの程度自分でコントロールできるか。状況に応じた複数の選択肢はあるか。

④影響の持続性は

転換により生じる状況は一時的か、それとも永続的か。

そしてシュロスバーグは、キャリアの転機に対処する第1ステップとして、4S点検を勧めています。

①状況(situation)

このような状況が起きた原因は何か。一時的か永続的か。過去の対処経験は活かせるか。その問題以外に抱えているストレスは。この状況をチャンスと捉えているか、危機なのか。

②自己(self)

その仕事の重要性、家庭や趣味とのバランスはどうか。変化に自分はどう対応しようとしているか。対処しようとしている自分に自信はあるか。人生にどんな意義をもっているか。

③支援(support)

他人から支援してもらえるか。前向きな指導をしてくれるアドバイザーはいるか。必要に応じて経済的支援などを得られるか。対処に必要な情報をえられるか。

④戦略(strategy)

職探しや必要なトレーニングなどを実行しているか。現状をプラス思考で考えているか。ストレス対処できているか。

さらにキャリア転換の第2ステップとして、4S点検に基づき、ライフキャリアの危機を好機に転換させる具体的戦略を練り、実行に移すよう述べています。

人生において、幾度となく訪れる転機。選択肢はさまざまであり、絶対的な正解はありません。自分が何を考え、どの道を選び、どう対処するか、それにより自分のキャリアが決まるだけです。そんな分かれ道に差しかかった皆さんと向き合い、共に悩み、その人らしい自律的なキャリアのありかたを考える。それが私の仕事、と考えています。

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